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序文(雰囲気だけでも掴んでもらえれば)
──あれが、いつの事なのかも、よくわからない──。
きがついたら、ずっと。かわのまんなかに立ってたんだ。
ここは、おおきな「たき」のまえ。かわぜんぶが、たきのうえからおちてくる。
ときどきたきのなかを、さかなたちがのぼろうとするけど、みんなうえまでいけないみたいだった。
うえからは、なにか。かいだことのあるような、ねむくなるようなにおいがした。……あっちには、なにが、あるんだろう。
そうおもっていると、あしもとで苔たちがわらった。さわさわと、あしのうらをこちょがしてくる。
あんまりおもしろくて、そのうちかわのなかを跳びはねてしまった。ぽつんぽつんとかわのなかにある苔の島をわたるように、とんとんと。
島はおおきいのからちいさいのまで、たくさんある。いちばんおおきい島はやまみたいにごつごつしていて、てっぺんに木がはえていた。
おもいっきり跳びはねて、木のえだのさきにとまる。ここまでくるのが、とてもたのしかった。
おおきなたきはずっと、かぜをふるわせておなかをゆらしてくる。ここはたきをぜんぶみられるから、なんだかうれしい。たきだけじゃなく、まわりもみてみた。
かわのそとはすこしくらくて、高くかべみたいなもりがつづく。ぎらぎらと、なんだか暑そうな光がもりのなかをはしゃぎまわっていた。
かわともりがくっつくところは、おおきないわだらけ。ふさふさした苔たちがてっぺんまでのぼっていたり、もりのなかから、あまぐもみたいな色の木がたくさん枝をのばして、かわにさわろうとしていたり。
ときどき、かわいいめをした鹿たちが、かわのはじっこにきてみずをのんだりもした。それをみつけて、熊がはしってきたりもした。
たきのまえはとてもたのしい。いつのまにか、もりの木たちがはっぱのいろをかえたりもした。
そらからしろいものがふってきて、もりもかわもぜんぶを、おなじ色でうめたりもした。かわのはしっこが、つめたくへんなかたちでとまったりもした。
なんどもなんども、それをくりかえした。それがいつでもたのしくて、ずっとここにいたいとおもった。
でも──
ある日、かわのはじっこに見たことないいきものがきた。
よるのまっくらをもってきたような、ふしぎな色をからだにつけて。
二本足でうごくそれは、あたまに三角のへんなものをかぶっていた。
みずをのんで、なにかをいって。そしたらこんどは、まっすぐに。
こっちをみていた。
そのめが、とてもこわかった。
ふしぎないきものは、かわのはじっこからがけをのぼって、たきのむこうへいこうとしていた。
そのとき、どうしてかわからないけど。
あのいきものをおいかけてみようと、おもった。
たきのおくは、ほそいかわとおおきないわ、たくさんの木しかなかった。
ぼこぼこしたいわのあいだを、へんないきものはどんどんよじのぼっていく。
そうしてついていくと、そのうち。かわはとてもおおきくひろくなった。
ふしぎないきものは、それをみてなにかいった。
みずうみ、というのがこのひろいかわのことみたいだった。
たきのおくに、こんなおおきな「みずうみ」があったなんて。
しらなかった、とおもいたかったのに。
なにか、へんなきもちが、のこっているのがわかった。
みずうみについてから、よるをなんどか越して。
あるひ、みずうみからおおきなおおきなべつのいきものがでてきた。
それをみたとき──
とてもおどろいた。いつかみたことがある。
たぶん、いちばんさいしょにみたことがあった。
かなしくなった。
うれしくなった。
にげたくなった。
とびつきたくなった。
どうすればいいかわからないそのとき、いきものどうしはたたかいをはじめた。
みずうみはおおきくなみうった。もりが、やまが、おおきくゆれた。
いわがとび、けむりがまい、もりはくずれて。
きづくと、おおきななみにのまれていた。
しらないところまで、ながされていた。
あのたきのところとも、みずうみともちがう。
からだがおもく、なにもうごかなかった。かわのはじっこで、ぼうっとなんかいもよるを越した。
もうなにもわからなくなってきたところで、また、ふしぎないきものとであった。
それはやっぱり二本足でうごいていて。
だけどいまは、たくさんいた。
かわのはじっこから、ふしぎないきものといっしょにすこしはなれたばしょまでうごいた。
やまのまんなかちかくまでのぼったらしい。かわがちいさくみえるばしょで、ふしぎないきものはぼくをはこのなかにいれた。
なんだか、とてもねむたかった──。
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