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Ⅲ View of despair
星空が寂しく輝く。
家の外で星空を眺めていると夜風が髪をなびかせる。
その風が心地いい。
まるで自分を洗ってくれているかのような風。
目を閉じれば心まで研ぎ澄まされる。
一人の時間にはちょうどいい寒さ。
昔はきっとこんなに星空を感慨深く見なかった。
でも今は星空が唯一の理解者だった。
孤独から解放されない私に星空は夢を見せてくれる。
ここから離れたらもっと違う星空が見れるかもしれない。
星空の研究が進んでいる街ならもっと星についてわかるかもしれない。
そしてまた新しい星が見つかるかもしれない。
考えれば考えるほど楽しくなっていく。
でも冷めればそれは夢物語になっていく。
見上げていた顔を下ろして家に入ろうとした時だった。
「カリーナ」
後ろからライメル兄さんの声が聞こえて振り返る。
今日は兄さんが一日いなかった。
あの病弱な兄さんが家を空けること自体珍しかったので心配していたのだ。
その兄さんの後ろに人影が見える。
でもその姿に見覚えがあった。
月が雲から顔を出しその人物を照らす。
紫色の上着、白銀の髪、赤とオレンジのオッドアイ。
間違いなかった。
あの時、私を助けてくれた。
呪いからかばってくれた、あの人だ。
「紹介したい人がいるんだ」
するとその人物は一歩前に出て微笑んだ。
優しくて儚さを感じる微笑み。
その微笑みに目を奪われる。
「初めまして。僕はロイロック・ヴィスメル。魔法使いだ」
彼の自己紹介に耳を疑った。
魔法使いはこの王都に数人と言われていてほとんどの魔法使いが王都監修の研究室にいるという。
今では魔法使いを街で見かけることもなくなった。
その魔法使いが彼だというのだ。
「安心して、カリーナ。ロックは僕の古くからの友人で安全な魔法使いだよ。実際、彼は魔法を使うことを嫌がっているからね」
「魔法を……?」
魔法が使える人間は敬われる。
少なくともこの王都では。
それなのに使わない理由は二つ考えられる。
一つは王都に関わりたくないということ。
二つ目は魔法使いだという風に見られたくない。普通の人間として生活したいということだ。
彼の場合どちらも当てはまるような気がして私は納得した。
「これからここで住むことになったんだ。僕と二人きりより誰かいた方がカリーナも気分転換できるんじゃないかって」
驚きもあったが、どこかで兄の言う通り安心する自分もいた。
あの日から私は家の周り以外出ていない。
外出の許可が許されていないのだ。
もちろん兄に。
だから兄以外と関わりを持てることが嬉しかったのかもしれない。
何より自分を救ってくれた人にもう一度会えたことが嬉しい。
どうしてあの時、私を救ってくれたかはわからないけれど。
「よろしく。カリーナ」
差し出された手は傷だらけだった。
その手を握ると温かな優しさに包まれる。
この手が何かを変えてくれる気がした。
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