Ⅲ View of despair

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まただ。 また私は闇の中にいる。 でもどこかで声がする。 馴染みのある声と安心する声。 誰なのかわからない。 そっと包まれる時もあって、その時は温もりをゆっくりと受け止めた。 不思議な感覚に呑み込まれる時もある。 言葉では言い表せない。初めての感覚。 その時はいつも愛おしそうな声が聞こえた。 闇の中でもがいてもそれは動きにすらならない。 何かが触れている、何かが聞こえる。 そんな状態でも私の体は動かない。 いや、感覚がない。 闇の中で感覚すらない私は不安を覚えた。 安心や快楽はあっても自由がない。 だからもがこうとする。 すると、いつものように眩しい光が射してくる。 その光に手を伸ばそうとすると体の感覚が戻ってきてようやく私は目を開ける。 目を開けるとそこはリビングの椅子だった。 うなだれるように座る私の目の前にはライメル兄さんがいた。 どんな時も目を開けると必ずライメル兄さんがいる。 「おはよう。カリーナ」 その声は日に日に弱くなっていく。 もしかしたら病気が進んでいるのかもしれない。 そう思い、医者に診てもらうことを提案したが兄さんは「大丈夫」と断ってしまう。 「ライメル兄さん、私どのくらい寝てた?」 窓の外はもう夕方だ。 記憶にあったのは朝方。 それにロックも今日は一日家にいると言っていたのに部屋の中にいない。 「あぁ、どこから記憶にあるんだい? 確か朝に寝ていたような……」 記憶は間違っていなかった。 とすると、また私は朝方から記憶を失うほど眠っていたことになる。 一種の病気かとも思ったが、負担はかけたくないと黙っている。 一つ思うのは、これが呪いでなければいいと。 呪いを解けるのはごく一部の人間と言われている。 それが誰なのか、どんな職業なのか、種族なのかすら教えられていない。 でも記憶にこびりついているものがある。 あの日、私が最後に店に行った日。 ルカの呪いをロックは確実に解いた。 あれがロックなのか、確かめてはいないけれどあのオッドアイは珍しい。 「ただいま」 声と同時に扉が開く。 そこには買い物袋を抱えたロックがいた。 「ロック、お帰り。急ぎの用事?」 ロックは私の言葉に一瞬手を止めるが、勘違いかと思うほど早くいつも通りに戻って微笑んだ。 「そう、食材に足りないのがあったんだ。あとこれ」 ロックは袋から何かを取り出すと私に差し出した。 それは魔法石でできた髪留めだった。 魔法石はその名の通り、ほんの少しの魔力を持っていて使う人間にその魔力を差し出すと言われている。 そのため人の間では高価な物だとされている。 「これ、もらえないよ」 「いいんだ。いつもカリーナは僕に優しくしてくれる。だからお礼に」 手の中にある魔法石は淡い紫色だった。 その石に触れるとひんやりとした感覚が伝わってくる。 「ありがとう、ロック」 そう言うと、ロックはいつも通り笑った。 でも気づいていた。 ロックがその笑顔を私に見せる時、ライメル兄さんの瞳が曇ることを。
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