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遠くを見る目はまるで過去を見ている。
その人たちがどれほど大切だったかわかるほど切ない目をしている。
「僕が5歳になった頃だった。一緒にいた人間がある日突然消えたんだ。それまで僕は王都の近くの小さな村に住んでいた。僕は親なしでね。施設にいたんだ。公認されていなかったけれど、人の温かみを知ることができる場所だった。でも今はもうない。あることがきっかけで王都から派遣された治安部隊によって取り壊されてしまった。だから僕はあちこち巡っていたんだ。君にだけ言うけど、盗みをしたことだってある。悪いことだけど、それしか方法がなかったんだ」
ロックの過去を知るのは初めてだった。
壮絶な人生に私は言葉も出なかった。
一度、こちらを見たけれどそれでも私は声をかけられずロックを見つめていた。
そんな私にロックは微笑み頭を撫でた。
「これは僕の人生だ。僕がいいならそれでいい。君が不幸だと思っちゃいけない理由なんてないんだ。自分が苦しいと思うならそれは苦しい。君は苦しかったんだろう? それは正直に吐いていいんだよ」
ロックの言葉に救われていく自分がいる。
窮屈だった心がどんどん隙間を作っていく。
だからだろうか。
その隙間に温かさや人の苦しさを感じる。
ロックが今こうして笑っているのは自分のため。
だけどその笑顔がこうして私を支えてくれている。
それをロックは知っているからまた笑ってくれる。
「僕はある日、自由になった。だから人を探そうと思った。そして自分が救いたいと思う人だけ救おうと思った。真っ当な、正義のような生き方なんてしなくていい。それで今の僕ができた。だから魔法が使えるのは君とライメルしか知らない。それにライメルが知らない僕を君はいっぱい知っている。だから自信を持って生きてごらん」
ロックの言葉は胸に染みて目頭まで熱くなってくる。
綺麗すぎない言葉だからこそ、今の私には届いてくる。
ロックのこの微笑みに私も応えたい。
そう思うと自然とロックの頬に手を当てていた。
「私、いつかロックの全てが見たい。涙も笑顔も。あなたのために流す涙は綺麗だと思うし、あなたのためだけに笑う笑顔はもっと綺麗だと思う。だからいつかロックの心が見てみたい。あなたの本当の姿に触れてみたい」
ロックの真実の姿は誰も知らないだろう。
でもだからこそロックの全てが見たかった。
いつか彼が自分のために感情を動かす時、私はそばで見守りたい。
「きっと、見てしまうんだろうな。カリーナは」
困ったような笑いを浮かべて星を見上げた。
その瞳は曇ることなく星を映している。
この時間はかけがえのない時間。
でももっと特別な時間が欲しい。
これが恋という感情なら私はその言葉をいつ受け入れるだろうか。
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