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Ⅰ To the darkness
威勢のいい声が市場に響く。
この市場には食材や織物、アクセサリーに魔法石とあらゆるものが並んでいる。
ここは王都のお膝元、ライズ市場。
そのライズ市場の雑貨屋で売り子をしていると、いろいろな話が耳に入ってくる。
次期国王の王子様の相手がもうすぐ決まるとか。
魔法石によって新たな実験が開始されるとか。
いろんな話が飛び交う中でいつも王都は平和だ。
平面上は。
中に入ればそれぞれの人間関係が行きかっていて平和とは言い難い。
何しろ、この国では美貌を試す祭りがあるほど美に興味深い。
幸いなのかここで売り子をできるだけの美を持ち合わせた私は何とか給料をもらって生きている。
でもその後ろを見れば、私に鋭い視線を向ける女たちもいる。
彼女たちは表に出ることを許されなかった。
彼女たちは技術を磨き、雑貨を店の奥で作っている。
「カリーナ・ミラフォード」
不自然に名前をフルネームで呼ばれるのももう慣れてきた。
私がこう呼ばれる時は必ず彼女たちの洗礼を受ける。
「私が作った雑貨はもう売れたでしょうね」
「売れていないのはあなたが仕事をさぼっているからではなくて?」
こんなことは日常だ。
売りあげをなるべく自分のもとに入れるよう手引きという名の脅しをしてくる。
さぼっているのではない。
元々、ここは古い雑貨屋。
常連は来ても新規はどうしても目新しいところへ行ってしまう。
それなのに彼女たちは常連に似合わないものを作って売ろうとする。
今流行りのカラフルなストールはこの雑貨屋でも売っている。
でも常連は皆、お年寄りばかり。
買うわけないと思いながらも店頭に並べている。
「まあまあそこまで。カリーナが売ってないんじゃなくて、物が売れないのだからしょうがない」
そこにやってきたのは私と同じ頃にこの店に入った少年、テラ・ランベール。
テラは容姿端麗で賢いところがあるが、私は彼を好きになれない。
自分が、俺が。そんな部分が強く見える人物だからだ。
「テラが言うなら仕方ないわね」
「でもテラ。カリーナに手を出してはダメよ? いくら人より美が優れているからってテラを独り占めしていいことにはならないわ」
「はいはい。出さない出さない」
そう言って言い寄ってきた二人組を中に入れた。
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