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どこがええねん、俺はもう一度聞いた。したら、その子、私もそう思うって!
「言わせたんやろ」
「俺の目をまっすぐ見て言ったんや、彼女の意思や!でな、俺の腕をつかんで、居酒屋から一緒に逃げたんや!」
「食い逃げや」
「エスケイプや」
それから、どないしたん。
くちゃくちゃと肉を奥歯で嚙みながら、師匠が俺をメガネ越しに見つめる。
「コンビニでビール買って乾杯よ」
俺はグッとビールジョッキを半分空ける。膨らんだ空気が俺の胸に充満している。その一瞬、彼女の肌の感触を思い出してしまって、派手なゲップでごまかした。
「どうやった」
「なにがや」
「相性や、身体の」
ずばりと切り込まれて、言いよどむ俺に師匠が追い打ちをかける。
「こはだとは違う味がしたんやろ」
こはだとの最後は、もう思い出せないほど遠くの事やった。薄着やったから、あれは去年の夏、か。もう数えるのも恐ろしい。
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