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なんとなく誘いにくい雰囲気を、こはだは故意に作っているようにも感じたが、そんなこと聞けへんし、俺の考え過ぎかもしれへんし……。せやけど、飢えていたことは紛れもない事実や。それがあったとしても、彼女の身体は、いや、身体というより感触と言ったほうが正しい気がする。彼女の肌の感触が、あの中に抱きしめられた感覚が今もまだ残っていて、それをふと思い出すだけであまい気持ちに引き戻された。
「そろそろ、潮時やな」
メニューの甘未のページを開きながら、俺の顔も見ずに師匠はそうつぶやいた。
「……浮上、するか。もうええ加減」
こはだとの話をしているのだと思っていた。
けれど、それは俺の勘違いだった。
「雑魚のケツの穴拭きながら落ちぶれたいなら止めへんけど」
全身に鳥肌が立ち、一気に酔いも冷めた。
こはだに生活の大半の面倒を見てもらいながら、その傍らで、俺は追い詰められて泣きついてくる後輩芸人のためにこっそりネタを書いてやっていた。裏方になるつもりもなく、かといって以前のようにぎらぎらした思いもなく、小遣い程度のお金で才能を切り売りして暮らしていた。師匠は全部知ってたんや。
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