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野菜売り娘とお嬢様
「下らないわ。」
そう言って席を立ったのは鷹咲清子。彼女は他の級友達とは違う。他の少女達がおしゃべりに花を咲かせている間、1人机に座り本を読んだり次の授業の予習をしている。
他の少女達が袴で登校している一方清子はシルク製の黄緑色のドレスを着用している。
容姿端麗で成績優秀の清子は女学校内では一目置かれる存在であった。しかし彼女は級友達とのおしゃべりには加わらず積極的に他者と関わろうとしない。そんな令嬢であった。
清子は中庭のベンチに腰掛けると本の続きを読み始める。
(ドッペルゲンガーですって?下らないわ。大体自分とそっくりな人て出会ったら死ぬって何かしら?世の中には自分と顔が同じ人が3人もいるって本で読んだことがあるわ。じゃあそのうちの2人が出会ったら死んでしまうのかしら?滑稽だわ。)
放課後。校門の前に高級車が止まっていた。車の中からグレイのスーツに身を包んだ美青年が降りてくる。
「あの方どなた?」
「きっとどこかの貴族の方かしら?」
「あんな美しい方あまり見かけないわ。」
下校中の袴の少女達は青年の噂をする。
「清子さん」
青年は黄緑色に丸襟にリボンのついたドレスに日傘を手にして歩いてくる清子に声をかける。
「あら、高円宮様、いらしていたのですね。」
「はい、本日近くを通ったのでお屋敷にお邪魔したらまだお帰りにならないとのことでお迎えにあがりました。」
「あら、ありがとう。でもわたくし今日は1人で歩きたい気分なのですの。だからわたくしのことはお気になさらないで。」
「そうですか。でしたらお屋敷でお待ちしております。では後程お会い致しましょう。」
「ええ」
高円宮家のご子息正彦様。清子の婚約者である。といっても親同士が決めたが。だけど美青年で気遣いもできて西洋のスーツを着こなす紳士。清子は正彦を悪く思ってはいなかった。
だけど清子は1人でいる方が気楽だった。学校でも家でも。教室では級友達の輪に入れず疎外感を感じており、家でも両親は教育に厳しく学校から帰ると専属の家庭教師と勉強の日々。時は1人になり解放感を味わいたくなる。そんなときどこに行くわけでもなく、1人で街中をブラブラしたくなるのだ。
しかしその日は違った。
「お嬢さん1人?」
見知らぬ男が声をかけてきた。2人いる。
気がつくと下町の路地に来ていた。周りは皆はいからな都心と違い木造の建物ばかりだ。男達の身なりもあまり良くない。
「お嬢さん、可愛いね。俺達と遊ばない?」
清子は壁に押さえつけられる。
「いや、やめて下さい!!」
「何だよちょっとくらいいいだろう。
清子は足を踏み入れちゃいけない領域に来てしまったのか?こんなことなら正彦様の車で一緒に帰れば良かった。
そう思った時だった。
「待ちな!!」
どこからともなく少女が現れた。作務衣にモンペ姿のいかにも貧しい少女だった。背中には野菜が沢山入った籠を背負っている。野菜売りなのか。
しかし清子は少女の顔を見て驚いた。
彼女は自分と全く同じ顔をしていた。
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