二人はプリンセス

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二人はプリンセス

「さあお入りになって。」 「宜しいのですか?お嬢様。」 清子はお千恵を屋敷の裏口から入れる。 「平気よ。今なら使用人は買い出しに言ってて誰もいないわ。さあ入って。」 清子はお千恵を自分の部屋へと入れる。白地に花柄の壁紙に白いテーブル、クローゼット、そして天葢付きのベッド。お千恵は見たことのないものばかりだった。  清子はクローゼットを開けるとドレスを2着取り出す。ピンクと淡いブルー。どちらも同じドレスだ。胸元にお花が並べられ宝石がちりばめられている。 「綺麗」 お千恵が呟く。 「ありがとう。これはねマダムリーズのお店で購入したのですわ、」 「まだむりーず?」 「帝都にあるフランスから来た貴婦人がやってる洋服屋さんよ。ピンクとブルーが両方素敵だったからどちらか決められなくてわたくし両方頂いてきたの。さあ、着替えましょう。」 清子はお千恵にブルーのドレスを渡す。 「わたくしはピンク、貴女はブルーにしましょう。」 お千恵は清子に手伝ってもらいながらドレスに着替える。 「千恵さん、後締めてもらえるかしら?」 「はい。」 清子はお千恵に背中を向ける。 「あの、お嬢様、この傷」 清子の背中には傷があった。まるで棒か何がでぶたれたような跡が。1つや2つではない、複数の傷痕があった。 清子の表情が一瞬暗くなる。 「これは昔階段で落ちたときにできたものなんですの。痛みはもうなくなっていてよ。どうぞお気になさらないで。」 「はい。」 お千恵は清子のドレスのファスナーを締める。 「そうだわ」 清子はドレッサーの引き出しから白いカチューシャを2つ取り出す。1つは自分が付け、もう1つはお千恵に被せる。 2人は鏡の前に立つ。 「まるで双子だわ。」 お千恵が呟く。ドレスの色以外は全部一緒だ。顔も髪型です髪色、そしてカチューシャも。 「そうね千恵、わたくし達は双子のプリンセスね。」 「ぷりんせす?」 「西洋の言葉でお姫様って意味なの。わたくし達双子のお姫様ね。」 「双子のお姫様。ええ。」 「よく女学校で妹とこのカチューシャで双子の真似をしていたのよ。」 「お嬢様は妹がいらっしゃったのですか?」 「妹と言っても本当の妹ではないわ。エスだったの。」 「エス?」 エスというのは英語のローマ字の「S」姉妹を現す「sister」の略で女学校内で特別親しい上級生と下級生を指す。 「お嬢様は女学校の何年生ですか?」 「今は5年生。誕生日がまだなので17才ですわ。お千恵は?」 「私は女学校は行ってません。街の小学校を卒業して野菜売りになったので今は19才です。」 「じゃあわたくしが妹ね。お姉様。」 「ええ」 2人は手を取り合う。  応接間には清子の婚約者正彦が来ていた。ノックと共に色違いのドレスを着た清子とお千恵が入ってくる。 「清子さんが2人?!」 正彦は目を丸くして言葉を失っていて。 「正彦様、ご紹介致しますわ。こちらわたくしの大事なお姉様、千恵お姉様ですわ。」 ブルーのドレスを着たお千恵が清子の振りをして清子を自分だと紹介する。 「初めまして千恵さん。」 正彦はピンクのドレスを着た清子に手を伸ばす。 「こちらこそお会いできて光栄ですわ。清子の通う女学校の専科に通っております。千恵と申します。」 清子は正彦の手を握る。婚約者ですら2人は見分けがつかなかった。
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