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嫉妬
「やっぱり私このままがいい。」
そう言い出したのはお千恵だった。
「どうして?またお姉様には会いに来るし、お姉様も私のお屋敷に遊びに来て。そしたらまた一緒に」
「違うの!!」
「違うって何が違うの?お姉様?」
「私貴女になりたいの。」
華族令嬢として1週間過ごしてきたお千恵は今の環境が自分の育った環境より恵まれていると思った。
「お姉様それ本気でおっしゃってるの?」
「ええ、本気よ。」
「だってお姉様は家族や近隣には恵まれてるわ。お姉様は1人じゃない。」
「それは清子も一緒だよ。2着もドレスが買えてふかふかのベッドに個室。美青年の婚約者、自分を慕ってくれる友達。貴女だって恵まれてる。私以上に。貴女は幸せな娘だわ。」
「お姉様は何も分かってらっしゃらないわ!!正彦様の正体もあの家族の実態も。お姉様には普通の暖かい家族がある。だからその家族の元に帰るべきですわ。」
「じゃあいいわ。だったら」
お千恵は清子の首に手を伸ばし強く掴む。
「お姉様、何をなさるの?」
お千恵はさらに力を込めていく。
「くるしぃ、おねぇさま やめてぇ」
意識が朦朧とする中級友が話していたことを思い出した。
「自分とそっくりなもう1人の自分と出会うと死んでしまうんですって。」
ただの噂と思っていたのに。そう思った時には既に遅かった。
「わたくしが鷹咲清子。ごきげんよう。どこな誰だか知らない物売り娘さん」
清子が息をしてないのを確認すると捨て台詞を吐き物置小屋を後にした。
その2週間後、お千恵、いえ清子は女学校を中退。正彦と結婚した。あまり派手なことを好まない正彦は明治神宮で身内だけの挙式をした。生まれて初めて着る白無垢に清子は心踊らせていた。
美しい婚礼衣装なんて自分に縁がないと思っていたお千恵にはまさに天からの贈り物だった。
式が終わると正彦が住む屋敷へと連れられる。
「さあ、入って。」
これで清子はもう宮家の貴婦人、天皇家とも親戚なのだ。
(良かった。あの娘と入れ替わって。)
お千恵はほくそ笑む。美青年も地位も全て自分の物。そう思ったときだった。
「さあ、君は今日からこの部屋を使ってくれ。」
「どういうこと?」
お千恵が案内されたのは座敷牢であった。
牢は1つや2つではない。それぞれの牢には女性が入れられてる。
「皆、彼女が僕達の新しい仲間さ。仲良くしてやってくれ。」
お千恵は空いていた牢へと入れられる。お千恵が入ったのを確認すると執事が扉を閉め鍵をかけ去っていく。
「開けて!!出して!!」
お千恵は格子を掴み叫び出す。
「無駄ですわ。」
隣の牢から女性の声が聞こえてきた。彼女も牢に囚われた者なのか。
「無駄ってどういうこと?」
「ここからは出られないってことですわ。でも宜しいじゃない。あの方は私達を横縞な男から守ってくれるのよ。ここは天国よ。貴女だって男に嫌な思いさせられてきたのではなくって?ここにいれば男達の欲望の餌食にならなくていいのよ。」
「ねえ、貴女は誰?横縞な男達って。」
「貴女も分かってるのではなくて?」
お千恵には彼女の言ってることが分からなかった。
「清子様」
再び執事がやってきて牢の扉を開ける。
「清子様、今夜は旦那様が貴女様をご所望です。」
お千恵は執事に連れられ牢を出る。次に女中達に白の寝具に着替え寝室へと連れて行かれる。
「旦那様が参ります。今暫くお待ち下さいませ。」
女中は一礼すると去っていく。
ほどなくして正彦が現れる。
正彦はお千恵の隣に座り彼女を布団の上に横たえる。そして馬乗りになると自らの寝具を脱ぎ出す。
お千恵は正彦の身体に目をやる。
「どういうこと?」
正彦の品やかな裸体にお千恵は返す言葉を失った。
「どういうことって。君が見ての通りさ。僕は女だよ。」
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