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穢れた花園
「見ての通りさ。僕は女だよ。探偵使って僕のこと調べてたなら知ってるだろうと思ったけど。僕が何も気付かないとでも思った?」
正彦、いや彼女はどう見ても女だ。
正彦とは偽名。本当の名前は朝子という。
「僕がこうなったのは10年前。15才の少女だったときさ。」
その頃の正彦、いえ朝子は黒髪を伸ばし振り袖を好み、お茶やお華を嗜む宮家の令嬢であった。
ある時陸軍大佐でもある父が部下である青年を家へと連れてきた。年は20と若いが「大尉」の地位が約束されている将来有望な青年であった。夕食時に同席した時は好青年だと思った。
しかし
「その夜彼は僕の寝室へとやって来た。まあ何をされたかはお察しの通りってわけさ。」
「だったらなぜ家族の誰かに相談しなかったのですか?」
「したさ。でも父は彼は真面目な士官だからそんなことはしないと突き返されてしまった。それに後から知ったがあいつは僕の婚約者だった。やつはいずれ夫婦になるからいいだろうと言ってその後も僕はしつこく関係を迫られた。だから」
「だから?」
「僕は長い髪を切り落とし男装を始めた。正彦と男の名前を名乗り僕と同じような境遇の少女達を探した。男のいない楽園を作るためにな。君だって分かるだろう?」
朝子はお千恵の寝具の帯をほどき、襟元をはだけさせると両手でお千恵の体をうつ伏せにする。
「君も僕と同じような思いしたじゃないか。鞭で打たれて痛かっただろう?」
その時お千恵の脳裏に清子の背中にあった無数の傷痕が過った。
次の瞬間お千恵の寝具を剥ぎ取る。
「嘘だろ?」
お千恵の背中には傷1つない。
「君はまさかお千恵とかいう物売り娘だろう?」
そう言うと朝子は机の引き出しから写真の束を取り出す。
それは下町ので野菜を売っているお千恵の姿だった。正式にはお千恵と入れ替わってる清子だ。
「清子ちゃんが僕のことを調べていたように僕も君のことを探偵に調べさせていたのさ。興味深くてね。君は清子、ではなくお千恵。どうせ君達は入れ替わったのだろう。」
「ええ、私はお千恵。清子ではないわ。だけど残念ね。清子のあの傷は階段から落ちたのよ。貴女と同じじゃないわ。」
「ははは、君は本当に馬鹿だね。」
朝子は笑い出す。
「そんなの嘘に決まっているだろう。彼女の父親は教育に厳しい人でね。小学校の頃試験で満点を取らないと大変だったんだよ。父の部下である男達に地下室に連れて行かれ一晩中鞭で打たれていたんだ。華族令嬢に憧れてるんだか知らないがここは君が思う華やかな甘い世界じゃないんだよ。」
すると朝子は今度は背後から抱き締めて首筋に口付ける。
「まあいいさ。傷1つない美しい身体は初めてだ。君のことここにいる誰よりも可愛がってあげてもいいよ。」
朝子はそのままお千恵を再び布団の上に横たえる。
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