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みのりの森
森がある小学校は当校だけ。
朝礼で校長が毎回口にする台詞だった。
うちの学校には《みのりの森》と名付けられた森がある。
学校施設内に森。
それが鴇鷺小学校唯一の自慢のタネだった。
だが実際学校の森で遊ぶ生徒は少なかった。
森があるとは珍しい、とはしゃぐのはいつも大人たち。
子供たちは森を見ても特にはしゃがない。
森だから鬱蒼と木が生えてて空気も湿ってるし虫も多い。
あまり遊ぶのに適してないみのりの森は子供たちからも「そういえばあったな」くらいの存在だった。
時々思いだしたかのようにかけっこをして遊ぶ生徒もいる。
また忘れれば森は放置された。思い出さなければ遊ばない。
最近は森の活気を取り戻すために木登り自由のルールが可能になった。
ただし落ちたら危ないと、木の幹には登っていい所までに目印のリボンが結んである。登っていいのはここまで、と。
枝が細くなり登りにくくなるため、それ以上上へ登るの禁止という目印だ。
そんな赤の警告を無視して遥か上の枝に座る生徒がいた。
「のぼっちゃダメじゃん。落ちたら大怪我するよ」
注意というか警告をしてやる。声に気づいた少女は下を見下ろす。
「……珍しい。ここに遊びにくる生徒なんていたんだ」
「こちとら毎日来てるっての。何してるのー?」
「山桃」
指で摘まんだ紅い果実を見せつける。木にはたくさん紅い果実が鈴なりに実っている。
「そのリボンのルール守ると食べられないから」
「いや、食べちゃダメじゃん。学校の所有物だし」
「そうなの?」
「いやどうなんだろ……どう思う?」
「知らない。山桃食べちゃ駄目って言われてないし、言わなかった教師たちの責任でしょ」
そりゃ山桃採れるほど木登りできる生徒なんていないから……
「よく来るんだって?」
木の上の少女が聞く。
「まあね。校舎には……居場所がないから。いわゆる嫌われ者ってやつ」
「ふぅん」
「あんたは?」
「別に。特に気にしたことない。ねえ、君」
少女がこちらを見つめ涼やかな声で言う。
「どうしても嫌な奴がいたらさ、私に言いなよ。なんとかしてやれるかも」
「え? ぼこぼこにするの?」
「そんなところかな」
「なぜ曖昧にする」
「ねえ、いる?」
うーん、そうだね……
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