最終日

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「ねえ、寂しい?」  こういうとき、あからさまな『女子』を使ってくるのは、たいていの場合で茶化しに来ている。いつもならうるさいの一言で済むかもしれないが、このときは実際に返せる言葉は持ち合わせていなかった。  なにせわからないのだから。未來のいない時間の進め方なんて。 「さあな、離れればわかるだろ」 「うわっ、冷た! そんなだからモテないんだよ!」  込み上げてきた感情を素直に言葉にするとこうなる。それが配慮に欠けたものであっても、期待にそぐわない解答だとしても、いとも簡単に許されることがわかっているから。  それくらい、僕たちはお互いのことが手に取るようにわかる、わかるようになってしまったのだ。 「……楽しみか?」 「えー、別にそんなことないよ。卒業式なんて黙ってなきゃいけないから暇じゃん」  訂正しよう。僕は舌っ足らずな部分もあるから、たまに言葉のキャッチボールが上手くできないときもある。「そうか、そうだよな」と相槌を打つように返答をしたが、僕が聞きたいのはそういうことじゃない。  彼女は明日、東京に引っ越す。  賃貸の手配は済んでいるらしい。田舎から東京の生活に慣らすために、卒業後すぐに発つと先日聞いた。僕は北海道の大学に進学する。もう少しこっちにいて、下旬には旅立つつもりだ。そのことはもちろん未來も知っている。  永遠とも思えるほど寄り添いすぎた日常が終わりを迎える。そこから連想される言葉を無意識に回避しようとするのは期待か、エゴか。  未來の言葉はそのどちらでもないのかもしれない。  なあ未來。君はいま、なに思う?
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