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僕たちは兄妹のそれとも違う、友情ほど熱くもない、恋をするには至らない。魂が引き寄せ合う、いわばソウルメイトとでも言えばいいのか。そういう存在になっていった。
だから僕たちの間にはもうずっと男と女の区別がない。むしろ性別という抗いようのない事実は邪魔なくらいだった。
もちろん物理的なところは区別してる。まさかトイレはお構いなく連れ立ってするとか、体育の着替えを一緒にするとか、そこまで馬鹿じゃない。ただ精神的な面で性別というのはいろいろと邪魔だった、ということだ。
僕たちは離れても、いまと同じでいられるのだろうか。
下校して僕が「またな」と言って家に入って、次に「おはよう」というまでの間の時間は、逆にほとんど時間を共有したことがない。連絡を取り合うわけでもなく、次の登校の時間、朝の8時に僕の家の前で再び「おはよう」と言って、お互いに同じ時間を享受しはじめる。そうやって、引いては返す波のような日常を繰り返してきた。
なぜ、僕はいまこんなにも未來のことを思うのか。
明日彼女は発つ。
誰しもいつかは離れることになる。様々なかたちがあるにせよ、僕たちの場合、絆ある友として9年間を共に過ごした時間に終止符を打つ。それ故の感情なのか、寂しいと端的に言えるものでもない。
会って当たり前、いて当たり前、呼吸をするのと同じ、そこに未來を感じられるのが世界。それが明日からずっと無くなるのだから……。
わからない、わからないのだ。君のいない日常が。
パラパラと乾いた拍手が聞こえて目を開ける。ベートーヴェン的校長はもう壇上を降りていた。
なあ、僕はいま――何を思っているんだ?
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