最終日

6/6
前へ
/10ページ
次へ
 僕たちは兄妹のそれとも違う、友情ほど熱くもない、恋をするには至らない。魂が引き寄せ合う、いわばソウルメイトとでも言えばいいのか。そういう存在になっていった。  だから僕たちの間にはもうずっと男と女の区別がない。むしろ性別という抗いようのない事実は邪魔なくらいだった。  もちろん物理的なところは区別してる。まさかトイレはお構いなく連れ立ってするとか、体育の着替えを一緒にするとか、そこまで馬鹿じゃない。ただ精神的な面で性別というのはいろいろと邪魔だった、ということだ。  僕たちは離れても、いまと同じでいられるのだろうか。  下校して僕が「またな」と言って家に入って、次に「おはよう」というまでの間の時間は、逆にほとんど時間を共有したことがない。連絡を取り合うわけでもなく、次の登校の時間、朝の8時に僕の家の前で再び「おはよう」と言って、お互いに同じ時間を享受しはじめる。そうやって、引いては返す波のような日常を繰り返してきた。  なぜ、僕はいまこんなにも未來のことを思うのか。    明日彼女は発つ。  誰しもいつかは離れることになる。様々なかたちがあるにせよ、僕たちの場合、絆ある友として9年間を共に過ごした時間に終止符を打つ。それ故の感情なのか、寂しいと端的に言えるものでもない。  会って当たり前、いて当たり前、呼吸をするのと同じ、そこに未來を感じられるのが世界。それが明日からずっと無くなるのだから……。  わからない、わからないのだ。君のいない日常が。  パラパラと乾いた拍手が聞こえて目を開ける。ベートーヴェン的校長はもう壇上を降りていた。    なあ、僕はいま――何を思っているんだ?
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加