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海女小屋と呼ばれる小島の
海神様の祠(ほこら)に供物を捧げ祈りをすませた。
息が白い。
―― 隣のばあちゃん、母親姉妹が海女だったって言ってたな。
その小島での写真だろう、みな元気よくまるまるとした体つきで
それぞれがあわびやサザエや大きなえびを両手に持って
声が聞こえるくらいの笑顔でこんなにとれたーという恰好をしている。
そんな白黒の写真を見せられたことがある。
小島から大分離れて、気付いた。
島に行ったら、海女の碑をきれいにしてきてや、年で行けれんから。
おすそ分けやで、と畑でとれた大根や白菜をかかえてきたばあちゃんに
海女の碑の掃除を頼まれていたのだった。
冬の海は遥かまで広がっていた。
空から雪が降り始めていた。
水平線の向こうの山が白くかすんでみえた。
先で魚がはねた。
その描かれた弧の中遠くのタンカーが、切り絵のようだった。
フェイスガードの隙間から冷気が刺してくる。
グローブの中にしみた海水で指先が少し痺れてきていた。
兄は、あの日カフェで見た写真と同じような景色に自分がいることに気付いていなかった。
ただ得に言われぬ既視感は感じていた。
彼がジェットスキークラブの手伝いを頼まれて半年が過ぎた、冬の昼下がりだった。
ジェットスキーが一台、冬の湾の真ん中に、小さくぽつりと浮かんでいる。
「水彩画みたいね」
とび色の瞳が呟いた。
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