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細い左腕の白い内側に、その跡があざのようにまだのこっている。
妹はもう紅茶を飲み終えていた。
コーヒーを少し口にした。
味がしなかった。
他界した母の代わりと治療費を補うために昼夜働き続けている父の代わりを、すべて妹がやってくれていた。
そのころの病院の私は自分が口惜しくて仕方なかった。
コーヒーの匂だけがした。
―― 私は想いを知っていた。
―― 私の想いも知っていた。
私の命は彼女だ、だから彼女の好きにすればよいと思った。
それでいいんだと思ってきた。
しかし、さっき、気付いてしまった、無理にそう思いこませてきただけだと。
―― 違う、言いようのない感情が・・・、違う。
―― いけない。
何も考えない方がいいと思ってホラーに挑んだけれど、無理だった。
しばらくして、怖ぇーと言って、たぶん私のことを心配して兄は出てきて、飲むかっ?と、片方の缶ジュースをくれた。
「メロンでよかった?」
「うん」
兄はやっぱりこぼした。
ボーダーに水色の沁みがついた。
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