夏の夜、私はキスをした

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男女数名の友人たちと川辺で花火をしに来た。 本当は花火をしちゃいけないんだけど、深夜に近い時間帯に静かにこっそりやればバレないらしい、ということで皆で集まり花火をしていた。住宅街から離れている所だったので、騒がなければバレることはないだろうというのは現地に着いてからその言葉の意味がよく分かった。 けれど、悪いことをする、という意識はそうそう拭えるものではない。 そして、そういうことは、ドキドキする。 パチパチと爆ぜる火の花を見つめて、綺麗、と思うと同時に罪悪感だとか背徳感だとか色んな気持ちがないまぜになって、普段は学校でいい子でいる私の鼓動はずっと忙しかった。 でも、鼓動が忙しい理由はそれだけじゃない。 「火、頂戴」 隣に男子が来る。 今まで気にしたこともない男子。 私より10㎝身長が高い彼の私服姿は初めて見た。 ジーンズに黒Tシャツ。 パッとしないけど、火の花に照らされた横顔はどこか凛々しくて、「結構キレイだな」とこっちを見た表情と声が妙に優しくて、私は普通の呼吸がわからなくなった。 「暑い、ね」 何の脈絡もなく私は呟いた。 夏なんだから暑くて当たり前だ。 花火の傍にいるんだから暑くて当たり前だ。 私たちの後ろで他の人たちがヒソヒソと花火で盛り上がる声が妙に大きく聞こえて、さっき水を飲んだばかりなのに妙に喉が渇いた私は唾を飲み込んだ。 「あ」 私の花火が消えた。 「あ」 数秒後に、横にいる男子の花火も消えた。 煙の匂い。 火薬の匂い。 草の匂い。 虫の鳴き声。 川の音。 ヒソヒソとした他の人たちの声。 別の場所からパチリと花火が爆ぜる音。 色んな音や匂いを一気に感じていた私の肩に、熱い腕が触れる。 近い 心臓が痛い。 呼吸が痛い。 花火を持つ手が、痺れる。 私は男子の方を見た。 ふわりと香った土の匂いは、恐らく汗をかいた彼の匂いなのだろうか。 生温いものが、少し唇に触れた 不快、ではない。 いやでも、口の端に少し付着した唾液は少し、不快だったかもしれない。 慣れない下手なキス。 私の唇を食べるような豪快なキスでありながら、思いやりがない食いつくような欲望のままに動いたようなキス。 日焼け用に羽織っていたカーディガンで少し口端を拭って、私は彼に背を向ける。 「一緒に、する?」 後ろからかけられた声に私は「うん」と答えた。 同じような色をした棒を一緒にとって、火をつけて、また肩を並べて花火を眺める。 最初に花火をした時より、肩の距離は近い。 「「あ」」 2人の花火が同時に消える。 さっきより早かった。 それは、私たちの妙に逸る気持ちを察して、だろうか。 ――2度目のキスは、口を閉じずに、開いてみようか きっとそう思ったのは私だけじゃないのだろう。 煙の臭いを感じる前に、私の鼻にツンと土の匂いが横切った。 fin
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