都会からの来訪者

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 依然として、私から視線を逸らさない彼に声をかけてみると、やっと小さく口を開いた。 「やっと会えた……」 「え……? すみませんが、やっぱりどこかで……?」  記憶はない。だけど、彼も私に見覚えがあるのだろうか。彼の顔を覗き込んでみると、今度は我に返ったように姿勢を正した。 「す、すみません。失礼しました。こちらこそお世話になります、WEBデザイナーの小鳥谷と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします」  丁寧に互いの名刺を受け取り、お辞儀を交わす。葛巻くんも挨拶を終えると、互いに向かい合って座る形で腰を下ろした。  なるほど、聞いていた通りイケメンだ。目鼻立ちもはっきりとして、毛穴すら目立たない肌は陶器のようで、私のスッピンなんかよりもずっと綺麗だ。  心なしか、彼を見ると目がチカチカするような気までしてくる。無駄にキラキラのフィルターがかかっているのかもしれない。さらには、ひとつひとつの所作が丁寧で、思わず見入ってしまう。男の人なのに、指先は細くて長くて綺麗で、そして―― 「あの、失礼ですが、私たちどこかで会ったことありましたっけ……?」  一度話を戻そう。先ほど彼は確かに「やっと会えた」と呟いた。それに、私だって一瞬どこかで会ったような気がした。  だとすれば―― 「いえ、初めましてですよ」 「え? あ、そうですか……」  あまりにあっさり否定され、拍子抜けしてしまう。「でも」と話を挟みたいところだが、イケメン故、変に粘着質なストーカーと思われるのもごめんだ。……それは話が飛躍しすぎているかもしれないが。  ひとまず胸に抱いた違和感はおいておき、せっかく来てくれたのだからと仕事に集中した。
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