3406人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
「……なるほど。確かに今のサイトには問題がありますね。おそらく取り扱っている商品は良いのですが、そこへ辿りつく前にユーザーが諦めてしまうんでしょう」
「やはりそうですか……」
「そこが一番の改善点にはなりますが、せっかくいい商品を揃えているので、見せ方ももっと工夫できると思いますよ」
打ち合わせが始まってしばらく。葛巻くんと三人で、サイトの方向性について話し合っていく。だいたいの方向性や納期などが決まると、一旦話はお開きとなった。
「念のため確認ですが、報酬に関しては、お約束の通りですがよろしいでしょうか?」
「はい、構いませんよ。確認した上で応募させていただきましたので」
にっこりと爽やかに小鳥谷さんが微笑む。やはり、キラキラしている。打ち合わせ中は仕事に集中していたが、気を抜くとすぐキラキラフィルターがかかってしまうので困ったものだ。原因はおそらく、彼の顔が整い過ぎているからだろう。
薄い唇から覗かせる、白く整列した歯は、気味が悪いほどに均等に並んでいる。
そんな私の考えを知る由もなく、小鳥谷さんは手元のコーヒーを一気に流し込むと、葛巻くんに視線を合わせた。
「大変申し訳ないのですが、もう一杯いただいてもよろしいでしょうか。今日は少し、暑かったので」
「もちろんです。少々お待ちください」
葛巻くんが席を立った後で、小鳥谷さんと二人きりになる。すると彼は「そのかわり」と、先ほどの話に戻した。
「実際に、御社で取り扱っている主力商品を見せていただきたいのですが」
「はい。もちろんです。オフィスにあるものだけにはなりますが、この後――」
「できれば製造元で直接」
「え……」
あくまでここは、サイトの運営会社。発送などの作業は各商品の販売元で行っているため、ここに置いてあるのは飾り程度の商品のみだ。
さらには県内各地から取り揃えている商品を、製造元で見たいとなると、ほんの数時間で回るのは不可能だろう。
「実は今回、週末いっぱい滞在する予定でして。月舘さんにはお休みのところ申し訳ないのですが、明日一日お時間をいただけないかと。日曜でも構いませんが」
「あ、明日ですか?」
「実際に自分の目で見た方が、デザインのインスピレーションが湧くんです。実際、それもあって東京から足を運んだのもありまして、なんとかお願いできないでしょうか」
そう言われてしまっては、断るのも申し訳ない。しかも、明日は特に予定もなかったはずだ。嫌がるかもしれないけれど、葛巻くんも同行させよう。
「わかりました。では、葛巻にも確認して――」
「いえ。月舘さんのみでお願いします」
「わ、私だけですか?」
「わざわざ休日に、お二人揃って時間をいただくのも気が引けますし。それに、月舘さんのことをもっと知りたいな、と」
「へっ?」
とんでもないことを言われた気がして、素っ頓狂な声が漏れる。
私のことを知りたいというのは、それは――
「いえ……御社のビジネス自体に興味があるんです。どうしてこの会社を立ち上げたのかなど含めて、社長である月舘さんからいろいろお話を聞けたらな、と」
「そ、そうですか……」
平然と言い直され、紛らわしい言い方に動揺してしまった心を落ち着かせる。どう考えても仕事の話なのに、私は何を勘違いしたのだろうか。恥ずかしい。
「ですが、市内だけではないので、だいぶお時間を頂くことになると思うのですが……」
「もちろん構いませんよ。明日は特に予定もありませんので。月舘さんへの連絡は名刺の電話番号で大丈夫ですか?」
小鳥谷さんが問題ないのであれば、これ以上は説明する理由もない。頷くと、タイミングよく葛巻くんがコーヒーのおかわりを持って戻ってきた。
「では、あとで連絡しますね」と、まるで葛巻くんには内緒話でもするかのように、小鳥谷さんが微笑む。
「……どうかされましたか?」
私たちの空気に、葛巻くんはどこか違和感を覚えたようだったけれど、何でもないと首を振った。
最初のコメントを投稿しよう!