都会からの来訪者

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「……なるほど。確かに今のサイトには問題がありますね。おそらく取り扱っている商品は良いのですが、そこへ辿りつく前にユーザーが諦めてしまうんでしょう」 「やはりそうですか……」 「そこが一番の改善点にはなりますが、せっかくいい商品を揃えているので、見せ方ももっと工夫できると思いますよ」  打ち合わせが始まってしばらく。葛巻くんと三人で、サイトの方向性について話し合っていく。だいたいの方向性や納期などが決まると、一旦話はお開きとなった。 「念のため確認ですが、報酬に関しては、お約束の通りですがよろしいでしょうか?」 「はい、構いませんよ。確認した上で応募させていただきましたので」  にっこりと爽やかに小鳥谷さんが微笑む。やはり、キラキラしている。打ち合わせ中は仕事に集中していたが、気を抜くとすぐキラキラフィルターがかかってしまうので困ったものだ。原因はおそらく、彼の顔が整い過ぎているからだろう。  薄い唇から覗かせる、白く整列した歯は、気味が悪いほどに均等に並んでいる。  そんな私の考えを知る由もなく、小鳥谷さんは手元のコーヒーを一気に流し込むと、葛巻くんに視線を合わせた。 「大変申し訳ないのですが、もう一杯いただいてもよろしいでしょうか。今日は少し、暑かったので」 「もちろんです。少々お待ちください」  葛巻くんが席を立った後で、小鳥谷さんと二人きりになる。すると彼は「そのかわり」と、先ほどの話に戻した。 「実際に、御社で取り扱っている主力商品を見せていただきたいのですが」 「はい。もちろんです。オフィスにあるものだけにはなりますが、この後――」 「できれば製造元で直接」 「え……」  あくまでここは、サイトの運営会社。発送などの作業は各商品の販売元で行っているため、ここに置いてあるのは飾り程度の商品のみだ。  さらには県内各地から取り揃えている商品を、製造元で見たいとなると、ほんの数時間で回るのは不可能だろう。 「実は今回、週末いっぱい滞在する予定でして。月舘さんにはお休みのところ申し訳ないのですが、明日一日お時間をいただけないかと。日曜でも構いませんが」 「あ、明日ですか?」 「実際に自分の目で見た方が、デザインのインスピレーションが湧くんです。実際、それもあって東京から足を運んだのもありまして、なんとかお願いできないでしょうか」  そう言われてしまっては、断るのも申し訳ない。しかも、明日は特に予定もなかったはずだ。嫌がるかもしれないけれど、葛巻くんも同行させよう。 「わかりました。では、葛巻にも確認して――」 「いえ。月舘さんのみでお願いします」 「わ、私だけですか?」 「わざわざ休日に、お二人揃って時間をいただくのも気が引けますし。それに、月舘さんのことをもっと知りたいな、と」 「へっ?」  とんでもないことを言われた気がして、素っ頓狂な声が漏れる。  私のことを知りたいというのは、それは―― 「いえ……御社のビジネス自体に興味があるんです。どうしてこの会社を立ち上げたのかなど含めて、社長である月舘さんからいろいろお話を聞けたらな、と」 「そ、そうですか……」  平然と言い直され、紛らわしい言い方に動揺してしまった心を落ち着かせる。どう考えても仕事の話なのに、私は何を勘違いしたのだろうか。恥ずかしい。 「ですが、市内だけではないので、だいぶお時間を頂くことになると思うのですが……」 「もちろん構いませんよ。明日は特に予定もありませんので。月舘さんへの連絡は名刺の電話番号で大丈夫ですか?」  小鳥谷さんが問題ないのであれば、これ以上は説明する理由もない。頷くと、タイミングよく葛巻くんがコーヒーのおかわりを持って戻ってきた。  「では、あとで連絡しますね」と、まるで葛巻くんには内緒話でもするかのように、小鳥谷さんが微笑む。 「……どうかされましたか?」  私たちの空気に、葛巻くんはどこか違和感を覚えたようだったけれど、何でもないと首を振った。
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