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プロローグ
浅い眠りから覚めると、見慣れた天井に安堵のため息が漏れた。また、ちゃんと現実に戻ってこれたのだ、と。
今日も今日とて、また、夢を見ていた。正しくは夢なのか、それとも幻覚なのか、はっきりとは分からない。
目を閉じると、瞼の裏にぼんやりといくつもの光景が浮かんで来る。初めて見る景色に、会ったことのない人物。それが本当に実在するのかも、自分には確認するすべなどないのに。
夢の内容は正直よく覚えていない。それでも目が覚めると、いつもぎゅっと胸を締め付けられる。時に温かくて、時に切ない……自分でもよくわからない感情だ。
夜通し眠っていても、体は鉛のように重く、這うようにデスクへ向かう。
そして使い古したペンを、ただ夢中で走らせた――
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