夏の終わりのキス

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 砂浜にロウソクを立て、火を灯しては風で消えてしまう流れを、何度か繰り返す。五度目の火が灯ったとき、やっと一本目の花火に火が付いた。 「わ~! 綺麗!」 「本当だ。ねえ、こっちにもちょうだい」  一度ついた火が消えないように、互いに分け合いながら次々と火の花を咲かせていく。文字やマークを描いてみたり、くるくる回ってみたり……童心に帰った気分ではしゃいでいると、二人分の花火では物足りず、あっという間に最後の一本が消えてしまった。 「あー終わっちゃった」  真っ白な重たい煙を残したまま、辺りが再び暗闇に包まれる。名残惜しい気持ちで残りの線香花火を取り出すと、奏がハンカチを敷いてくれ、二人で砂浜に腰を下ろした。 「綺麗……」  線香花火は控えめに燃え始め、やがて激しい光に変わる。しかし―― 「あっ!」  奏と同時に火を付けたというのに、私の火の玉はあっという間に砂浜へと消えていった。 「私、線香花火苦手なんだよね……」 「はは、わかる。何かそんな感じ」 「どんな感じ!? なんか、じっとしてるのが苦手っていうか……」 「うんうん」  潮風が絶え間なく吹いているというのに、奏の線香花火はびくともしない。そして十分に燃え続けたあとで、最後の命を全うするがごとく、ゆっくりと消えていった。 「す、すごい! 最後までいった!」 「だね。まぐれかな」  奏ははじめこそ謙遜していたが、そのあとの線香花火もすべて落とすことなく終わらせてしまった。もちろん、私は早々にリタイアしたのだけれど。  さすがに認めたのか、「俺、じっと待つのは得意みたい」なんて笑ってみせた。やっぱり彼に苦手なことはないのだろうか。
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