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「ねぇ、ミコ」
「なぁに? ジョニー」
「僕、空の花の話を聞きたい」
「フフ、夏になったらいつも聞きたがるわね」
「夏?」
「そうよ。ちょっとでも動いたら汗が出てしまう今の季節のことを人間たちは夏と呼ぶの」
「へぇ」
「そして暑さを吹き飛ばすために、怖い話をして身体を冷やすという習慣もあるのよ」
「あ! だからミコは昨日真っ黒な人間の話をしたんだね!? 僕凄く怖くて中々眠れなかったんだから! 僕のお父さんより大きな大きな細くて黒い影に背を向けたら暗闇の底に連れていかれるって聞いてどれだけ怖かったか! 木の影に潜んでいるとかミコが言うから、僕、夜の間木を見ていても怖いし見てなくても怖いしで泣いちゃって『王の息子が情けない』ってお父さんに怒られたんだから!」
「アハハ、ごめんごめん。でも、暑いのは吹っ飛んだでしょう?」
「吹っ飛んだけど暑い方がマシだよ!」
「フフ、じゃあとびっきり怖い話をしてお父さんを怖がらせてみてはいかが?」
「え、できるの!?」
「特別な人魚に出来ないことはないわ」
そう言って水色の瞳を鋭く光らせながら細め口元に弧を描く人魚の言葉に、ゴリラのジョニーは何度も瞬きを繰り返します。時々ミコが言う”特別な人魚”はどういう意味なのだろう、と。けれど他所から来たのに森の人気者にあっという間になってしまった人魚にはジョニーが知らない何か特殊な力はありそうだ、となんとなくで納得したジョニーは「ミコは凄いね」と褒め称えました。
「フフ、それじゃあ空の花の話をしましょうか。そうね、空の花が夜に咲くのは夏に人間が始めるお祭りの時と話したわね?」
「うん! 暑い気分を吹き飛ばすためのお祭りでしょ?」
「そうよ。蒸し暑い夏の夜の憂鬱な気分を吹き飛ばすためのお祭りよ」
「あ! だから夏祭りって言うんだね!」
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