幸福

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幸福

「でさぁ……」 学校からの帰り道。 菜乃花のいつもの自慢話を聞いていた時だった。 ポタリ。 頭の上を雫が通ったかと思うと、バケツをひっくり返したような雨が降ってきた。 「うわ!!ヤバ!!」 あそこに入ろ! そう言うと彼女は駆け出した。 菜乃花が示した場所は公園内の小さなトンネルの中。 ……嘘でしょ。 周りを見渡してもこの雨を回避するにはあそこに入るしか無さそうだ。 仕方なく彼女に着いていく。 当たり前だけど女子高生2人が入るには厳しくて、だけど濡れたくないし、トンネルの中はぎゅうぎゅう詰めだ。 狭い。暑い。……はやく出たい。 「ヤバっちょっと待って」 菜乃花が突然スマホを取りだした。 そして熱心に写真を撮っている。 「…今のこの状況で写真映えなんかするとこどこにあんの?」 呆れて呟くと分かってないなぁというように首を振られた。 「いつかこの時を思い出すため!!」 人間は忘れる生き物なんだから! 声高に言うが理解できない。 写真は記憶装置ではない。 この瞬間が思い出したいなら脳みそを使うべきだ。 「あっそ…」 けどめんどくさいから言ってあげない。 彼女が周りからなんて言われてるかも。 写真を撮り終えた彼女がそのままスマホを弄っている。 …まさか、 「ストーリーに今のもあげるわけ?」 「当たり前じゃん!」 この暗いトンネルの中で眩いほどの笑顔を見せられた。 何がそんなに楽しいのだろう。 インスタグラムのストーリー機能。 今を他人と共有するため、と言ったら聞こえはいいけど、私は自己顕示欲を満たすための道具にしか見えない。 そんなものに支配されたくない。 「里香はまたストーリーあげんの?ってどうせ思ってんでしょ?」 「…」 「なんで私があげたいかなんて、私が満たされるために決まってるじゃん?」 「…はぁ」 「私が何で満たされるか分かる?」 「…さあ?」 彼女は得意気に笑った。 「里香と過ごしてる!っていうのをみんなに知らしめることが、最高に私を満たすんだぁ!」 今すぐトンネルに爆弾を打ち込みたい衝動に駆られた。 恐怖。 私を支配する感情はそれしかない。 「そっか」 私が彼女に心を開くことは今後一切ないだろう。
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