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出発(一)
「おねーさんがそれを失くしたのも、この辺りだったんでしょ?」
埋め立てられた河というのが、両脇をコンクリートで固められたこの細い川ではないか……少年はそう推察してきた。
「そうよ。ほら、失くなった物は、またその場所に戻ってきそうじゃない?」
ずっと若さと美しさを保つ彼女であるから、怪しまれないようにたまに引っ越しながら、近くの家を借り続け、目を光らせていたのだ。
「そんな、犯人は現場に戻るみたいな理屈……」
苦笑した少年は、途中で言葉を切って、うーんと唸る。
「いや、もしかして、一理あるのかな? 結局、ここに飛んできた布を、僕が拾ったんだから。疲れて仮眠してたアパート前で、おねーさんと会ったのも、何かの導きかもね」
真面目に考える少年を見て、あまねは声を立てて笑った。
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