出発(一)

1/1
前へ
/12ページ
次へ

出発(一)

「おねーさんがそれを失くしたのも、この辺りだったんでしょ?」  埋め立てられた河というのが、両脇をコンクリートで固められたこの細い川ではないか……少年はそう推察してきた。 「そうよ。ほら、失くなった物は、またその場所に戻ってきそうじゃない?」   ずっと若さと美しさを保つ彼女であるから、怪しまれないようにたまに引っ越しながら、近くの家を借り続け、目を光らせていたのだ。 「そんな、犯人は現場に戻るみたいな理屈……」  苦笑した少年は、途中で言葉を切って、うーんと唸る。 「いや、もしかして、一理あるのかな? 結局、ここに飛んできた布を、僕が拾ったんだから。疲れて仮眠してたアパート前で、おねーさんと会ったのも、何かの導きかもね」  真面目に考える少年を見て、あまねは声を立てて笑った。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加