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ヤクザ×不憫
「くそっ!逃げやがった!!」
「若、奥にガキがいました!息子ですかね?」
「息子?男は売れねぇだろ、しかもこのガキ、ボロボロじゃねぇか。若、どうしますか?」
「痛っ、」
「おい、カタギに手荒なことはしない約束だろ?ほら顔あげて」
「ヒッ、、、、ごめ、ごめんなさ、、ぃ」
「っ、、、暁、この子を連れていく」
「は、?いや、わかりました。」
「よし、行くよ」
「え?ちょ、痛っ」
「あ、強く掴みすぎたか。フラフラして遅かったから、、、ちょっと持ち上げるよ。」
「ひゃぁ、まっ、、て下さ、い。落とさないで、、、ごめんなさい。」
「落とさねぇって、君が大人しくしてたらね⋯」
「若っ、私が運びます」
「いいから、触れるな」
「ぁ、申し訳ありません」
何がおこってるの⋯。
僕はいつも家族から奴隷の様に扱われていた。仕事で何かあったのか、昨日も父親はさんざん僕を殴った後、いつもの部屋に閉じ込めて出て行った。いつの間にか眠っていたが、騒がしさと突然押し入ってきた男の人に連れ出されて久しぶりに出た部屋の外には黒い人がたくさん。若って呼ばれた人にいきなり腕を引っ張られその力強さと勢いにフラフラな僕は転びそうになって、、、、また殴られると覚悟した瞬間の浮遊感。高所から落とされる恐怖感に震える僕をしっかり抱きしめた男は横づけされた車に乗り込んだ。「どこに行くんですか?」と恐る恐る聞くも、「いいから、黙って寝てて」と膝枕され、頭を撫でられた⋯ここで眠ってしまった僕は、やっぱりおかしいのかも。
「若、その子を囲うおつもりですか?」
「そうだな。気に入ったのは確かだし、そのつもりで扱ってあげて」
「よかった。その子の状態が気になっていたんです。これでも私は可愛いモノが好きなので。そして可愛いモノは健康でなければいけません。その子は、、、、、調べます。」
「・・・とりあえこの子の嫌がることはするな。それ以外は任せる。」
「ありがとうございます。」
(んっ―何だろう凄く温かい)
「起きたの?」
「へっ?あっ、ぼ、僕寝て、、、ごめんなさっ、、ここは、、っ」
「落ち着いて。ここは僕の自宅。そのままじゃ汚いからさ、僕と一緒にお風呂にはいってるところ」
「汚い、、、そうですよね。僕お風呂なんていつぶり、、、じゃなくて!こんな汚いのに抱っこしてもらって車も、、、汚してしまいましたよね。どうしよう、、、」
「(抱っこって、、、可愛いな)いいから、、、それより傷は痛くない?」
「ぁ、、、えっと⋯(どう言ったらいいの?)」
「ま、痛いに決まってるよね。風呂あがったら手当てだな」
「⋯は、、ぃ」
それから傷に触らないように優しく洗われて、僕を後ろから抱え込むように一緒に湯舟に入ってくれた。お風呂から上がった後も優しくしてくれて、タオルで包まれたままベッドに運ばれたかと思ったら男の人は部屋から出て行った。
たぶん僕は父親の借金のカタに連れてこられたんだよね?だから綺麗にして売られちゃうのかな?でも傷は絶対に消えないし、だったらこんな汚い僕は売れないだろうな・・・そしたら臓器とかになるのかな?でも身体も弱いから、、、売れる臓器あるのかな・・・・何で優しくしてくれるのか何もわからない僕は、悪い方に悪い方に考えて怖くなって涙がでてきた・・・
「ふっ、、、ぐすっ、、っ、うっ、、」
(ガチャ)
「あらあら?どうかしましたか?もしかして若に酷いことでもされましたか?」
「してないよ!何で泣いてんのさ?寂しかったの?」
「ふぇ?っ、だ、誰、、ですか?」
「私は若の補佐をしている暁と申します。」
「暁さん、、、、僕は、纏と言います。」
「おい、僕より先に暁の名前呼ばないでよ」
「ヒッ、ご、ごめんなさいっ、、あの、名前がわからなくて、、、っ、、ふっ、、、ぅ」
「な、泣かないで。僕は霧生蓮司。」
「ぐすっ、、、っ、、、霧生さん?」
「蓮司だよ」
「む、無理です。呼び捨てなんて」
「暁は呼んだじゃん」
「まぁまぁ、、、纏君も慣れたら呼んでくれますって。その方が楽しみがあっていいでしょ?呼んでくれるまで優しくしてあげて下さい。そして纏君。若はぶっきらぼうで一見冷たくて怖いですが、今のは私に嫉妬しているだけなので気にしないで下さいね」
「暁、うるさい。」
「失礼しました。さ、纏君?傷の手当てをしましょうね」
「て、、あて?」
「怪我をしている姿をみるのは私が悲しいので、、、早く治しましょう?」
「さっさと手当てしろ」
「はいはい。心が狭いですね、、、」
「??」
暁さんはとても丁寧に長年の暴力による怪我の手当てをしてくれた。昨日は特に荒れてたから打撲が酷い。この人たちはきっとヤクザさんだよね?どうして僕なんかに優しくしてくれるんだろう、、、。この身体をみたらお金にならないって思ったよね。暁さんは僕の手当てが終わったら「纏君?何かあったら遠慮せずに若に言って下さいね」と言葉を残して帰って行った。
「あ、あの、霧生さん」
「なに?帰るのは無理だよ」
「いや、そうじゃなくて、、、えっと、僕はどうしたらいいんでしょうか?」
「あ?」
「ビクッ、い、いや、ほら、僕って借金のカタですよね?でも身体も見た通り汚いから売れないでしょ?家事も普通の事しかできませんし、、、、お役に立てることとしては臓器を売るくらいしか思いつかなくて、、、僕は、、どうしたらいいんでしょう?」
「何もしなくていい。」
「えっと、、、、」
「何もせずにここにいればいい。それが気になるなら君ができる普通の家事でもしてたらいいよ。」
「で、でも、、」
「僕はお前を買ったんだ。僕の言うことは絶対でしょ?」
「っ、、、わ、かりました、」
side::蓮司
一度頭を冷やすために部屋から出た。中から声を押し殺して泣く声が聞こえるが、今は知らないフリをした方がいいだろう。纏君は今まで過酷な境遇で過ごしてきたから、ここでは自由に過ごして、できれば甘えて欲しいと考えていたんだけど、、、あの言い方じゃ脅迫だよね。だいたい今日会ったばかりの初対面のヤクザに半ば無理矢理連れてこられて、裸にされて手当てはしたけど、、、、怖いに決まってるよね。はぁ、とにかく優しく接して早く慣れてもらうのが先決だな。
side::纏
霧生さんが部屋を出て行った後、泣き疲れて僕は眠ってしまった。起こされて申し訳なくて謝ろうとしたら、無言で首を振って温かい食事を食べさせてくれて、傷に薬を塗ってくれた。数時間は一緒にいたのに一言も話してくれずにずっと無言・・・。さっき僕が変なこと言ったからもう話したくもないんだ。そうだよねお世話になったのに僕が出来る事って普通の家事だけだし、、、そりゃがっかりするよね。とりあえず、これ以上がっかりされないように明日から家事頑張らないと、、そうしないと僕は、、、ふっ、、、っ
side:蓮司
纏君がまた泣いている。僕が話せばまた傷つけてしまいそうであえて無言で接したけど失敗した。困って暁に電話したら無言で世話するくらいならそっと一人にしといた方がマシだって怒られた。纏君に関わるといつもの僕じゃない。どう接していいのかわからない。
side:暁
まったく若は何してるんでしょう。ま、今回は遊びじゃないみたいですし最大限のフォローはしますが、、、それにしても初対面のヤクザに無言で食事を食べさせられて、薬を塗られて、、、、纏君は怖かったでしょう。部屋に入ると案の定、纏君は泣いていた。泣きながら無意識に自分を傷つけたのか、腕には新しい傷があった。落ち着かせるために優しく手当てをしつつ若についての話をした。
「纏君、若が申し訳ありませんね。怖かったでしょう?」
「い、いえ、、、怖くはないです。ただ、お世話になったのに僕は何も返せるものが無くて、、、その話をしたら、、、、もう口をきいてもらえないくらい嫌われてしまいました。」
「ふふ、それは違いますよ。私はその前に何の話をしたのか知りませんが、若は纏君に酷いことを言ったのではありませんか?」
「酷いことというか、、、、でも、本当のことなので・・・」
「若はそれを気にして、だからあんまり話したらまた酷いことを言ってしまうと考えてあえて無言だったんですよ。」
「え・・・」
「気づいているかとは思いますが、若は霧生組の若頭です。今までは遊びの付き合いはあっても、恋愛をしたことはありません。なので纏君相手に接し方がわからないんですよ。」
「恋愛?好きな人ってことですよね?僕はただの借金のカタですよ、、、いや、霧生さんに買われたから何されても何も言う資格はありません。だから、接し方なんて考えなくていいと、、、、酷くてもいいからせめて話をして欲しいと伝えて欲しいです。」
「それは若に言われたんですか?本当に若は不器用すぎますね。それと、その言葉は纏君が直接伝えた方がいいと思いますよ?」
「僕は嫌われているので、、、、伝える事はできません。もうきっと僕なんかの顔もみたくないと思います。で、でも、明日から家事頑張ります。頑張るから嫌わないでほし、、ぃ。」
「だそうですよ?後はお願いします。」
「纏君、ごめんね。僕は君のことを借金のカタだとか、使用人の様に思ってないから。」
「そ、そんな大丈夫です。言われたことはちゃんとしますから。使用人でもなんでも僕は気にしません。」
「それじゃダメなんだ。僕は君にただゆっくり傷を治して欲しいし、何もしなくていいから僕の傍にいて欲しかっただけなんだ。」
「え?」
「たぶん・・・いや、僕は、君の事が好きなんだ。人を入れたことがないこの部屋にあんなボロボロの男を違和感なく入れたり、僕の傍に居て欲しいと思うほど好きなんだ」
「え、え、、っと僕、まだ、、その」
「わかってる。出会ったばっかりで混乱するよね。ただ、僕は絶対に君に暴力は振るわない。だから、僕の傍に居て僕の事を知って欲しいと思ったんだ。」
「何もしなくていいって、そういう意味ですか?」
「そう。言葉が足らなくて傷つけたよね・・・あと、無視したわけでもないんだ。僕は、人に優しくする方法がわからないから・・・」
「、、、その、霧生さんは僕にずっと優しいですよ?」
「そう、、かな?これからも好かれるように努力するよ。」
side:蓮司
(接し方なんて考えなくていい、、、)
(酷くてもいいからせめて話をして欲しい、、、)
(嫌わないでほし、、ぃ)
暁と話している纏君の言葉を聞いて僕は纏君を傷つけて苦しめてしまったと後悔した。僕に言われたことをすればそこに存在意義があると思って貰えるかと思ったが、そうは伝わらなかった。あれじゃただの暴君だ。暁と交代で部屋に入った僕は纏君を抱きしめて謝った。伝わったかはわからないけど、嫌っていないことを必死に伝えたと思う。僕の不器用な扱いも纏君は優しいと思ってくれてたんだな。これからは一人で泣かせるようなことはないようにしよう
僕、嫌われたわけじゃなかったんだ・・・。あんなカッコよくて優しい人が僕のこと好きなんて、、、本当かな?でも、騙されてるとしても今は優しくしてくれてるし、さっきのが嘘とは思えない。少なくとも前よりは安心できるし、何より帰る場所なんてないし、、、、僕はここで霧生さんのために頑張ろう。緊張やら嫌われる恐怖で気づかなかったけど、安心したらちょっと熱っぽいような・・・昨日結構殴られたからそれのせいだよね。明日から家事頑張るって言ったし、この程度の熱、こんなのいつもの事だし、いちいち霧生さんに言って身体が弱いってガッカリされたくない。どうか気づかれずに治って、、、
「纏君、ちょっと起きてご飯食べれそう?」
「(今ご飯食べたら吐きそう・・・)えっと、、、ちょっと食欲がなくて、、その、、」
「大丈夫。無理しなくても食べたい時に食べたらいい。僕は隣にいるから何かあったら呼んで」
「(迷惑かけちゃった・・・)ごめんなさい⋯」
そろそろ纏君に何か食わせて薬飲ませないと暁に怒られるな。
「(コンコン)入るよ・・纏君!?えっ、君、熱があるじゃない!」
「ぁ、だ、大丈夫で、す。これくらいいつもの事で、、すぐ治りますか、ら」
「そんなわけねぇだろ!くそっ、暁呼ぶぞ。」
「や、やめて!大丈夫だから、怒らないで、ください。おねが、い」
「ごめん。怒ってるわけじゃない。僕が、、、なんで言わなかったの?さっきも熱あったんでしょ?」
「これ以上迷惑かけたくないんです。明日からはちゃんと家事します、、だから、、だから殴らないで・・・」
「誰が殴るかよっ!いいから少し落ち着け」
結局心配かけちゃった。暁さんも夜中なのにお医者さんを連れてきてくれた。みなさん心配してくれてるけど絶対僕の事面倒だって、、、邪魔だって思ってる。そういえば父親にもいつも言われた、お前さえいなけばって。あの家での僕の存在意義はストレスの捌け口、それしかなかった。それがここでは何もしなくていいって言ってくれたのに、、、迷惑かけて心配かけて、、、ここでの僕の存在意義ってなんだろう。
side:蓮司
「殴らないで、、、」「僕は邪魔者だから捨てて下さい」「お願い、、、もう消えたい。」
熱に魘されて眠っているのに必死に訴えている纏君。無意識に腕を引掻くような自傷行為を腕を掴んで必死にとめる。抱きしめても何度起こしても全然落ち着かない。最後には堺に許可を出して鎮静剤を投与しやっと落ち着いて眠ってくれた。暁が調べた纏君の過去は相当酷いもので、今の状況から考えても纏君のトラウマだろう。僕が近くにいてもトラウマをどうすることもできない⋯それに僕は近くにいたのにこの子の熱にも気づけなかった。堺が言うには過度な心配は逆にストレスになるそうだ。僕はこの子に何ができるんだ⋯
side:堺
真夜中に暁に呼び出されたのは誰も入ったことない若様の自宅。中では若様が男の子を抱きしめており、最初は困惑した。暁に「さっさと診療しろ」と言われて初めて男の子が魘されているのに気づいた。全身打撲に高熱、、、自傷行為もあり軽度錯乱状態と思った以上に深刻だった。若様の許可を得て鎮静剤を投与し落ち着いた姿をみて若様だけでなく、暁もほっとしていた。この子はそういう扱いが必要なんだ・・・ならば若様には伝えておかなければ。はぁー、気が重い。
「若様、この子は長年の暴力で栄養状態はもちろん凄く悪いです。傷も治りにくければ風邪なども治りません。今はそれにプラスして急激な環境変化に伴う精神的なストレスも加味して今まで以上に体調を崩すことは多くなるでしょう。」
「どうすればいいんだよ。何もしないで休めって言ってもこの子は気にして泣いたんだよ。」
「言い方ですよ。一日休んどけって言われても、今日会ったばっかりのこんな怖い男の部屋で一人でゆっくり休めるわけないでしょう。それにこの子は今まで家のことしてたんじゃないですか?出来ても出来なくても殴られて・・・」
「そうだ⋯だから休めっていったんだ。」
「だから無理ですって!何もしないなんて無理なんですって!だから若様が仕事を与えるんです。もちろん量を調整して」
「はぁ?仕事だ?組の仕事を纏君にさせろっていうのか!?」
「纏君と言うんですね・・・そして、そんなわけないでしょう!家のことです!簡単な当たり前の普通の家事です。」
「それならさっき言った。普通の家事はできるって言ったから、じゃ、それをしろって」
「それ、この家に居たいなら家事でもしてろってことですか?」
「そうじゃねぇ、こいつのできることを調子に合わせてしろってこと」
「それ伝わりませんから。纏君は普通の家事でもしてろって言われたら、前の家の時と一緒で全部出来ないなら殴られるって、、、ちゃんとしないとって思ってるはずです。それなのにこんなに熱を出して、、、今死にたいと思ってるはずです。」
「そ、それは、、、、確かにさっき死にたいって魘されてたけど、、、」
「ほらみなさい。だからそんな冷たい言い方じゃなくて、例えば無駄に皿を使って皿洗いをお願いするとか、お風呂掃除とか床掃除とか、、、、いくつか仕事を指示するんです。纏君はそれに対して死ぬ気で取り組むでしょう。だから若様はありったけの愛情をこめて褒めるんです。できますよね?」
「そんなことで纏君が安心できるならやるしかない」
「こんな若様は初めてみました。またちょくちょく纏君の様子を見に来ます。入室を許可して下さい。」
「纏君に変なことするんじゃねぇぞ。」
「ん・・・喉乾いた、、、うわっ!(ドタッ) 痛っ、、、」
「纏君っ!!どうしたの!?怖い夢みたの?」
「うわっ、だ、大丈夫です!ちょっとお水を、、、」
「あ、水か、、水持ってくるから待ってて」
「(僕、熱出たんだよね、、、霧生さん凄い心配してたけど、僕何かしたのかな・・・)」
目が覚めてお水を飲もうとベッドから立ち上がった瞬間に膝に力が入らなくて転倒してしまった。あれ?熱だけでこんなに体力落ちるもの?困惑しているとすごい勢いで霧生さんが部屋に入ってきていきなり僕を抱え上げた。怖い夢ってなんだろう?それからお水を飲ませてくれて、温かいタオルで顔を拭いてくれた⋯本当に霧生さんどうしたの?
さっきまでの優しさとなにか違う。僕、何したの⋯
「あ、あの、、、看病してもらってありがとうございました。さっきよりはだいぶん調子がいいです」
「纏君、纏君が熱を出してから今日で2日たったんだ。」
「え?2日⋯?僕そんなにここを占領して迷惑を、、、」
「迷惑なんかじゃないよ!でも心配はした!両手をみて?」
「えっ!?すごい傷がいっぱい、、、そういえば少し痛い、、これは、、、?」
「纏君が魘されてる時に引掻いたんだ。僕達は止めたけど全然落ち着いてくれなかったから鎮静剤を投与しちゃった。今、身体が動きにくいのはそのせいもあると思う。ごめんね」
「い、いえ、逆に申し訳ありません、、、凄く面倒かけましたね。」
「謝らないで!心配はしたけど苦には思ってないから!逆に纏君にたくさん触れてよかった」
「へ?あ、身体を拭いてくれたんですね。ありがとうございます。」
「う、うん、、、どういたしました。」
「あ、でも!あの、僕は身体が昔から弱くて、よく熱を出すんです。でも寝てたら勝手に良くなります。昔は床で寝てたのに今はこんなにいいベッドなのでそれこそ1日で良くなる気がします!なのでもし今後僕が熱を出しても放っておいてもらって大丈夫ですよ。」
「な、なに言ってるの?」
「本当によく熱がでるので、いちいち心配してたら霧生さんが大変ですよ。僕はいなくても誰にも迷惑はかかりませんが、霧生さんは仕事があるので、、、」
「纏君が熱出したら僕は心配で仕事なんてできないよ!」
「え、、、、でも、どうしたら⋯あ!それなら霧生さんが仕事で不在の間はしっかり家事をして、なるべく合わないように自室で静かにしています!」
「は?」
「もともと霧生さんはこのお部屋に人が入るのは嫌だったって言ってたじゃないですか。それなのに他人の僕の気配があったらイライラしませんか?ただでさえ体調を崩した奴なんて、、、だから日頃から目に入らなければ熱があってもわからないし、霧生さんが気に掛ける必要もありません。」
「纏君、ここに来た時に僕が言った事覚えてる?僕の事を知って欲しいって言った事覚えてる?」
「ぁ・・・・」
「ねぇ、纏君。今までのことがあるから仕方ないけど、自分の事を卑下しないで。不安になるのもわかるよ?でも、僕が好きな君のことを君自身が雑に扱わないで。」
「霧生さん、、、ごめんなさい。霧生さんに大切にしてもらってるけど、僕にはそんな資格がなさ過ぎて自信がなくて。」
「ほらまた。君は今まで一生懸命耐えて頑張っていたよ。これからは僕が一生懸命君を甘やかすから、一生懸命耐えてね」
「・・・また、熱が出てきた気がします。」
「大変だ!また看病頑張らないと。とりあえず身体拭き、、、」
「き、気のせいでした・・・」
「そう?残念」
それからは料理に洗濯、掃除など慣れないながらも霧生さんにお願いされた分の家事を頑張った。まだ傷や体調が治っておらずフラフラしている僕に霧生さんはちゃんと休めって怒ってくるけど、霧生さんは仕事をしているのに僕だけ休んでいることなんてできない。何とか頑張ってたけどここで問題が発生した。霧生さんは毎回美味しいって言ってくれる料理だ。そう、バリエーションがない。料理は好きだけど、今まで学ぶ機会はなかった。霧生さんが普段食べているであろう高級料理を作りたくても、僕は今まで食べることも見る機会もなかった。毎回毎回同じような料理を出すことが恥ずかしいし申し訳なくなってきた。霧生さんに聞いても気にするなって言われるし、暁さんは最近みかけない。護衛の方に聞いてもわからないって言われるし・・・本屋さんとか行ってみようかな。僕、この家に来て初めて外に出るなーとか考えつつエントランスまで来たが止められた。
「白戸さん、どちらへ?」
「え、、っと、本、、、、」
「さ、外は危険なので中へ行きましょう。」
「ま、まって下さいっ、あの、本が、、、」
「中で伺います。今は中へ」
「は、はい、、、」
そうだよね。本来僕は借金のカタなわけで、そんな奴が外に出るってことは逃げることになるよね。とりあえず、料理本を自分で買いに行くことは諦めて護衛の方にお願いした。今度からそうしよう。僕はこの家で大人しくしとこう。そうしないと霧生さんの迷惑になるよね。今日の事はきちんと謝らないと。
「ただいま。あれ、纏君?・・・・寝てる、、だけじゃないね。また泣いてる、、、纏君、纏君起きて?」
「ぅん、、ぇ、、、き、霧生さん!?僕寝てっ、、ごめんないさい!出迎えもせず寝てるなんて・・・っ」
「纏君、出迎えなんていいんだよ。ここで待っててくれるだけでいいの。ね?泣かないで。」
「ぁ、、、あの!今日外に出ようとしてごめんなさいっ!逃げようとしたわけじゃないんです、ごめんなさい、もう二度と出ません。」
「ちょっと驚いたけど、逃げたなんて思ってないよ。用事があったんでしょ?僕はね、ここに纏君を監禁してるわけじゃないよ?ただ、僕の仕事上、外は危険だから、、、だから僕と一緒か護衛をつけてくれたら自由にしていいんだよ。」
「いえ、、、僕の勝手で煩わせたくないです。護衛の方にお願いしたので用事はすみました。勝手に護衛の方にお願いしてごめんなさい。と、とにかく大丈夫です、ごめんなさい。霧生さん疲れてるのに、すぐにお風呂とご飯準備します。」
「纏君・・・」
side: 蓮司
最近、纏君との距離が近づいたと思っていた。だから昼間に纏君が外に出ようとしたと連絡が入ったときは驚いた。一瞬逃げようとしたか?と考えたが万全じゃない体調と纏君の性格を考えると何か用事があったんだろうという考えで落ち着いた。何か欲しい物があるのかな?行きたいところがあるのかな?何でも用意するし、どこでも連れていくのになーと楽しみにしつつ帰宅した僕は、纏君との距離は出会った頃と変わらないこと、恋人になるどころか僕達の間の壁はとても分厚くて堅いことを再認識させられた。気持ちを押し殺している纏君、必死に笑顔で、、、、僕に、、いや、自分以外の全ての人に気を使って・・・。君と出会ってから今日まで、僕は君に精一杯気持ちを伝えて愛情を注いで、少しでも僕の事を知ってもらおうとしてきたつもりだった。でも、纏君には伝わってなかったんだね。どうしたら過去を塗り替えられるんだ・・・
side:纏
霧生さんどうしたんだろう?美味しいって言ってくれてるけどなんかいつもと違う・・・。やっぱり昼間のことかな。僕だって外に行きたい時も確かにある、、、けど、何か買いたいとかじゃなくて、ただ外の空気を吸いたいだけ。それだけなのに霧生さんや護衛の方の時間をもらうなんて僕にはできない。でも閉じこもってても霧生さんは気にしちゃうのか。よ、よし!ここは僕の気持ちをちゃんと伝えよう!面倒って思われるかな、、、でも今伝えないとダメな気がする。よしっ!
「あ、あの、霧生さん!!失礼を承知でお願い、、、お話がありますっ!」
「な、急にどうしたの?」
「あのぼ、僕は、、その、、、、、っ」
「落ち着いて、ゆっくり、、、ね?」
「僕は、、、あなたのことが、、、、好、、きです!」
「はっ!?」
「(ビクッ)」
「あ、ご、ごめん。ちょっと空耳が・・・」
「空耳じゃないです、、、ちゃんと好きって言いました、、もう遅いということですか?」
「んなわけねぇでしょ!それより、それは恋愛的な意味でってことでいいのかな?」
「は、はい・・・。だから!好きだから困らせたくないし嫌われたくないんです。」
「僕は好きな人には甘えて欲しいし、些細なことでも相談して欲しい。君の、、、纏君のことは何でも知りたいと思うよ。」
「でも僕は、甘え方とかわからない。相談することもどんなことなら相談してもいいのかわからないんです。」
「なんでもいいんだ。僕は君のどんな事でも知っておきたいんだ。そうだな、、、じゃあ、今日はどうして出かけようとしたの?逃げようとしたわけじゃないでしょ?」
「ち、違います!ただ、霧生さんにいつも同じ料理ばかり作っていることが恥ずかしいし申し訳なくて・・・その、料理の本を買いに行こうとしただけです。僕はおしゃれな料理を知らないから・・・」
「僕のためだったんだね・・・。纏君の料理はちゃんと全部美味しいよ。おしゃれな料理じゃないっていうけど、気持ちを込めて作ってくれてるのが伝わる僕の好きな味。いつもありがとう。でも纏君を困らせてたんだね。」
「ちがっ、僕が勝手に・・・そっか、これも霧生さんに聞いたらよかったんですね。」
「そうそう、些細なこともちゃんと話そう?纏君が欲しい物とか行きたいところとか僕に教えて欲しいな」
「今まで小さな部屋で生きてきたので、今の生活で十分すぎるくらいなんです。欲しい物なんてないですし、行きたい場所といわれてもわからないです。ここが一番落ち着きます。」
「そ、そうだよね。纏君に甘えてもらうのは大変だな」
「そんな我儘は言いません。甘えるなんて僕にはできない・・・」
「今までのことがあるから急には難しいよね。でもこれだけは覚えておいて。僕はね纏君。纏君が思っているよりも面倒な男でね?好きなモノは絶対手に入れるし、一度手に入れたら離さない。そのかわり大事に大事にする。纏君がどんなことをしても言っても僕は絶対に嫌いにならないし、逆に甘えてもらえるように僕が努力する。それと、纏君が逃げたくなっても絶対離さない。これだけは覚えておいて。」
「わ、わかりました。宜しくお願いします?」
「ははっ、何だそれー、こちらこそよろしくね?早く僕に慣れてね・・・(僕が我慢できるうちに)」
「え?」
「んー、なんでもない。」
勇気をだして霧生さんに伝えてよかった。想いを伝えてよかった。まだまだ僕から話しかけるには勇気が必要だけど、それでも嫌われないってわかったから・・・今までは出来なかったことを少しずつやってみよう。
「僕に幸せを与えてくれてありがとうございます。」
(僕に幸せを与えてくれてありがとうございます。)
無理矢理ここに連れられて環境変化から体調を崩して、、、大切にしたいと思っているのに今までいいことなんてなかったはず。それなのに彼は幸せだなんて・・・。この程度で幸せだなんて思って貰っちゃ困る。これからドロドロに怖いくらいに甘やかしてあげる。僕は気が短いからそんなに待てないよ?少しでもその分厚い壁が崩れた時は、、、覚悟しといてね?
「早く僕に堕ちてきてね纏君。」
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