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四
あたりは、すっかり明るくなっていた。
話し合いが行われたあと、カブさんと一緒に木の根もとまで帰った。
落ち葉の下で、カナコは静かに眠っていた。
「帰ったよ、カナコ。これからは、みんなで樹液を分け合うことになった。もう、争わなくてもいいんだ」
声は、返ってこない。カナコはもう、息をしていなかった。
ブンタは落ち葉を集め、カナコの体にかぶせた。
こぼれた涙が、落ち葉を濡らした。
なにも言わず、カブさんがブンタの背中に、そっと前足を置いた。
顔をあげ涙をぬぐうと、ブンタはカブさんの方をふり返った。
「カブさん。僕、ほかの林に行ってみます。ここであったことをほかの虫たちにも話して、少しでも多くの虫たちが、幸せに生きていけるようにしたいんです」
「そうか。おまえはもう、充分に強い。どこへ行っても、大丈夫だろう。このクヌギ林は俺たちに任せて、あとはおまえの思うように、生きてみろ」
「はい」
「さらばだ、ブンタ」
「さようなら、カブさん」
翅を拡げ、ブンタは飛び立った。痛みは感じない。どこまでも、飛んでいけそうだ。
クヌギ林の方はふり返らず、青空にむかって、ブンタは力強くはばたいた。
了
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