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第九話 卒業生はあるカフェで起きた怪異を語る
瀬戸静真、この学校のOBだ。よろしく。
しかし、文芸部で泊まり込みの合宿とは……男女比考えたら物騒じゃないか?
妹を持つ身としては色々言いたいことあるぞ、緑谷。
おい、なんだ、そのあからさまに聞いてない相づちは。聞いてる? ……本当か?
まぁ……一応、俺も声をかけてもらった訳だから、これ以上はやめておこうか。
ああ、それで怪談、な。
そんなに詳しい訳ではないが、知人から聞いた話でいくつかそれっぽいものがあったから、それらを紹介しようと思う。
ただ、当人のプライバシーもあるから、少し事実と違うことを混ぜさせてもらう。
まず、県内の別の高校であった、奇妙な事件について話そう。
その学校は、市内で一番の繁華街にあった。
降りる駅にはショッピングモールへの連絡口があり、高校までの道の途中にも複数の商業施設があり、寄り道し放題の環境だ。
だから放課後にもなると、その辺のカフェやファーストフード店は、その学校の制服を着た高校生であふれかえっていた。
ここで、この話の主人公となる……仮名、鈴木君とでもしようか……が登場する。
鈴木君は市内の別の高校に通っており、バイトのためにこの駅に下車していた。
彼のバイト先はカフェだった。
そして彼の働く店にも、やはりその高校の制服を着た子達がたくさん来店し、店の席を占めていた訳だ。
その中で、妙な子がいる、という話になった。
話の出どころは、鈴木君よりずっと前からその店に働く人だった。
彼曰く、その制服を着た女の子たちの中で、一人異様な子がいるという。
ちなみに異様、と表現するのは、この話をしてくれた彼に合わせた表現なのだが、不快に思う人がいたら許してほしい。俺が最初、この話を聞いた時は、異様というのは言葉が過ぎると感じたのだが、あえて原文を生かそうと思う。
その女の子は、容姿だけみると、既に老婆なのだという。
高校の制服を着ているので、一見すると高校生のはずなのだが、髪色や顔立ちはどうみても老婆のもの。
一人ぽつねんと座っているのなら、変わった趣味のおばあさんなのかと考えてもいいが、毎日同じ高校の女の子たちと一緒に来店し、彼女たちと、一見すると楽しく、お茶をしているだけのように見える。
まぁ、通常は起こりにくいとはいえ、高校に年齢制限はないからな。今から高校生をやりたかったおばあさん、という可能性もある。話を聞いた鈴木君も軽い気持ちで、先輩にそう言った。
先輩もなるほど、とその場は納得した。
だが翌日、バイトが終わって帰り際、鈴木君はまたも先輩に呼び止められた。
その時の先輩は、相当青ざめた顔をしていたらしい。
先輩曰く、昨日のおばあさんの顔写真をポスターで見かけたのだという。
鈴木君もポスター、ときいて、ひょっとして、と血の気がひいた。この辺りで貼られていたポスターといったら、鈴木君でも覚えのある、衝撃的な内容だったからだ。
この近くであった、当て逃げ事件。
近くに住んでいたおばあさんが、通りかかったバイクにはねられて死亡。はねたバイクは逃走したまま、見つかっていない。
その事件の目撃者を募るポスターが、鈴木君と先輩が見たものだった。
だけど、先輩の言う話が正しければ、先輩の見たおばあさんは生きた人間ではない、ということだ。
そこで鈴木君は、ふとある違和感に気づいた。
「いつ、そのおばあさんを見たんですか」
先輩と鈴木君は、ほぼ同じシフトに入っていた。テイクアウトで入ってきた程度の客ならともかく、店内にいた客だったら、鈴木君だって見ているはずなんだ。なのに、鈴木君にはその記憶がない。
そう、先輩が、異様だ、と表現するほど浮き立った光景にもかかわらず、だ。
そこで先輩もようやく、会話のおかしさに思い至ったらしい。先輩からしたらむしろ、鈴木君も分かっているというつもりで話していたからだ。だが、鈴木君が見ていないことを知り、その場で思わず声をあげてしまうほど衝撃を受けた。
「だってその席、お前がオーダー取ってたんだぞ!」
その声を聞きつけて、奥から店長が出てきた。あわてて謝る二人を制し、彼は小声で言った。
「その話、もうしない方がいいよ」
「え?」
「絶対に口にせず、そして気にしないこと。気にするな、というのは難しいだろうけど、僕らに出来ることはないからね」
店長は何かに気づいていたようだったが、二人の疑問を封じるようにそういうと、二度とこの話をすることはなかった。
その店長に霊感があるらしい、というのは、他のバイトから聞いた話。
ここからは鈴木君の推論になる。
おそらくその生徒は、本来は老婆ではなく、普通の女子高生と変わりない年齢の女の子なんだろう。そしてその子はおばあさんをはねたバイクを運転していたか、あるいはそのバイクに同乗していた。
そして、死んだおばあさんはその犯人を告発するために彼女に憑りついていて、先輩は憑りついているおばあさんの方を見てしまった――
という、ね。
この話の真偽は分からない。鈴木君の推論が正しいのかすら、分からない。
ただ一つの結末としては、その高校に通う二年生の女子が、彼氏とデート中に事故を起こし、死亡してしまう事故が二か月後に発生したことと、その話を聞いた先輩がバイトを辞めてしまったこと、をつけ加えておこう。
その店自体は未だにあり、変わらず店長はその人が続けているらしい。
さて、俺の話はここまで。次の語り部にバトンを渡そうか。
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