第十三話 不可解なピアノの怪(語り手:萌木明日香)

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第十三話 不可解なピアノの怪(語り手:萌木明日香)

ええっと、あたしの番ですよね。……うん、だいじょうぶ。まだかぶっていないから。 あたし、あんまし怖い話とか知らないから、誰かとかぶったら替えきかないんですよぉ。だから他のひとの話って、楽しむっていうか、すごいヒヤヒヤしちゃって、落ち着いて聞くどころじゃないっていうか。 だからかぶっちゃいそうな話を先に話しちゃうことにします。 あたし、今は文芸部ですけど、入学した時は合唱部に入ってたんですよぉ。 あ、文芸部も入ってましたけど、兼部できるんで、ウチの学校。あんがい、みんな知らないみたいですけど。 ええっと、その合唱部にいた時に見ちゃった話をしますね。 ウチって古い学校だから、校舎の立て方がめちゃくちゃじゃないですか。 A棟の横にB棟があって、その真ん中にC棟があるだけでも、あとからくっつけたなーって感じですけど、A棟からD棟が伸びたり、C棟からE棟が繋がってたりするから、入学したばかりの頃ってもう訳わからないでしょ。 で、みんな的にはスゴイ謎になるのが、C棟だと思うんだけど。 二年、三年になったらもうちょっと使うことになるのかなぁ、どうなんだろ。 少なくとも、御桜くんは使ったことないって言ってたよね。御桜くんは美術だから使わないよね、って思ってたけど、選択授業が音楽のキリちゃんも使わないって言ってたから、ホント謎なんですけど、あの棟。 あ、センパイ使ったことあります? 合唱コンクールの練習の時? ……あー、やっぱりそうですよね。なんかそういう、突発的な使い方くらいしかされてない感じしますよねー。 え? そんなことない? 堂橋くん、選択授業が書道なんだぁ、いかにもだね。ああ、書道室ってC棟なんだ。それなら堂橋くんには結構身近なんだね。 えーと、知らないひとのために説明すると、C棟って他校舎と同じ四階建てなんですけど、ほとんど特別教室になってて、普通の教室が入っていることはまずないっていうか。 すっごい昔、生徒数が多かった頃は教室としても使われていたみたいですけど、今はまったくなんですよ。 で、そのC棟、あたしが少し身近なのは、合唱部の練習に使っていた音楽室が、C棟にあったからなんですが。 そこにね、ミョーなものがあるのです。 一台のピアノが。 ピアノのどこが妙なんだって……ねぇ、堂橋くん。声、震えてるけど大丈夫? 震えてない? それならいいけど……でも、その調子なら、堂橋くんは知ってるんじゃない? C棟の廊下に置かれた、アップライトピアノのこと。 ええっと、男性陣は吾妻センパイ除いて分からないひと多そうだから説明しますけど、ピアノって大きく二種類あって、よく音楽室に置かれている大きなグランドピアノっていうやつと、よくお家でピアノの練習に使われる、縦長のアップライトピアノってやつがあるんですね。 そもそも音楽室に置かれるのがグランドピアノの方が多いんで、アップライトピアノが別に置かれているのが珍しいんじゃないかなって。音楽系の学校ならともかく、ここ、別にそんなんじゃないし。 それでも音楽室に置かれているんなら、そんなものかなーって思うんですけど、廊下ですよ廊下。 廊下の横に、どん、って、置いてあるだけ。 C棟って作られたのが古いせいか、木の廊下が残っているんですよ。ちょうど、そのピアノが置かれているのもそこで。だからめっちゃ古くさい廊下に、古びたアップライトピアノが置かれていて、ブキミさマックス感ただよっている訳ですよ! え? ああ、弾くと呪われるピアノとか、そんなんじゃないですよ。普通に使えるようになってるんで、生徒が勝手に使っちゃってもオッケーって先生が言ってました。あ、合唱部の顧問の先生ですけど。 いやいや、あんなボロイの使わないでしょ。フツーに許可取って、音楽室の使うでしょ、って合唱部のセンパイ達は笑ってましたけどね。 でもね、あたしは笑えなかったんです。 だってあたし、お母さんから聞いたことがあったんですよ。 ウチの学校の七不思議の一つが、夜中に鳴りだすピアノ、なんだって。 ええ、そうです。ウチの学校ってね、元々七不思議があったんですよ。今、生徒の中じゃ知っている人は少なくなっちゃってるけど、先生だったら知っている人もいるはずです。 もちろん七不思議なんて、どこの学校にもある、って言われそうですけど、うちの学校のやつは他校にいたひとでも聞くことがあるくらい有名だったらしいです。 でもあたし自身、あんまり信じてなかったんですよ。 だってお母さんは自分の経験のせいか、ちょっと心霊現象って信じすぎるところがあるし。 別にツボ買ったり、パワースポットとか言い出さないから無害ですけど、お姉ちゃんやあたしなんかは話半分に聞いてた。 だからあたしがこの学校に通うようになって、その話を聞かされた時だって、ちょっと内心バカにしてた。 でも、不自然に置かれたピアノを見た瞬間、急にバカバカしいと思えなくなって、ゾッとした。 これがその、夜中に勝手に鳴りだすピアノなんじゃないかって。 え、ちょっと堂橋くん本当に大丈夫? 顔、真っ青だよ? 平気? それなら続けちゃうけど…… それでももちろん、すぐ怖くなったわけじゃないの。 ちょっとはゾッとしたけど、でもピアノが鳴るだけじゃない? それも夜中だし。 大体、夜中にしか鳴らないピアノなんて、確かめられる訳ないし、そもそもデタラメなんじゃん、って思うようにしてた。 でもね、ある日あたしは確かめざるを得なくなっちゃった。 その日、合唱部の練習が予想以上に遅くなって、みんなバタバタしていたのね。 先生に許可取ってたとはいえ、下校時刻過ぎちゃってるから。出来るだけ、急ぐように言われていたし。 だからセンパイもすっごいあわててて、中の確認もせずに、音楽室を締めちゃったの。 ……うん、そう。あたしが中にいるのを忘れて、ね。 普通の教室の鍵って、中からも開けられるのが普通なんだけど、C棟の教室ってちょっと例外で、外からしか締められないし、開けられない形の鍵使ってるんだよ。 すっごいレトロだよね、ホント。 だからこそ鍵をかける時は気をつけなさい、って先生たちに言われていたはずなんだけど、センパイもちょっと抜けているというか。うん、ちょっとひどいけど、でもワザとじゃないから仕方ないね。 でも、そんなだから、あたしも音楽室から出られなくなっちゃったワケ。 あたしも最初は困っちゃった。 スマホは教室に置いてきちゃってたし、戸をバタバタやっても誰も気づいてくれそうにないし。 まぁ、でも教室にカバンは置いてあるし、明かりはつけっ放しだし、誰かは気づいてくれるでしょうってたかをくくってたらね……なんかその日は運が悪かったのか、なかなか気づいてもらえなかったの。 ちょうど職員会議がすっごく紛糾しちゃったらしくて、十時頃まで先生たちまでバタバタしていたのね。 で、あたしは十時になっても、音楽室から出られずじまいよ。 もうその頃には暇すぎて、音楽室の椅子を並べて、ふて寝してたんだけど。 その時、近くからピアノの音が聞こえてきた。 はっと身体を起こして周りを見たけど、近くのグランドピアノからの音じゃなかった。 もう少し遠く、廊下から聞こえてくる。 その時のあたしはね、ちょっと寝ぼけてたの。だから、あんまり考えなしで扉に近づいて、ガラス越しに廊下の、例のアップライトピアノを何気なく見た。 次の瞬間、眠気がばっちり覚めちゃったよ。 ピアノの椅子に、誰か座ってるの。そして、なんかの曲を弾いている。 うーん、あれはたぶん、別れの曲、だったかな。あとから思い出してそうだった、と思うだけで、当時はそんな余裕ないよ。 思わず、叫んじゃった。 あたしもよく覚えてないんだけど、そうとう騒いじゃったんじゃないかな。職員会議で残っていた先生たちがあわてて駆けつけてくるくらい、もう絶叫って感じだったらしいから。 で、音楽室から救出されたあたしは、ピアノのことを話したけれど、先生たちに適当にいなされて、車でていねいに送り返されたわけ。 で、翌日。 先生から大目玉くらったセンパイがね、あたしに謝るどころか説教してきたものだから、ムカついて合唱部を退部したんだけど、この話に尾ひれがついて、あたしが幽霊を見たから辞めた、みたいな話になっちゃったのね。 で、そしたらそれ以来、合唱部で幽霊を見た子とか、ピアノの音を聞いた子が続出しちゃって、結局合唱部は人数激減、同好会に格下げになるくらい人数が減っちゃった。 うん、ちょっとスカッとした。 でもね、そうなると、ちょっと考えちゃうんだよ。 だって元々の話は夜中に鳴るピアノだし、現にあたしが見たのって夜中だよ。なのに最後の方は、もう夜中じゃなかったもん。 だからね、思うんだよ。 あたしの見たのって、結局うわさを知っているから、つい先入観でそんな気がしちゃっただけ。 他の子たちだって、怖い怖いと思っていたから、そんな幻覚や幻聴を見ただけ。ただ、それだけなんじゃないかって。 え、部長、何か言いました? そうでもないかも、って……? あ、ひょっとして気を遣ってくれてます? でも別に、あたし、自分の幻覚で合唱部を格下げにしちゃったとしても気になりませんから、大丈夫ですよ、ありがとうございます。 じゃあ、次は吾妻センパイですね!
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