第三話 女生徒は理不尽な怪異を語る

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第三話 女生徒は理不尽な怪異を語る

あー、あたしの番ですかぁ? 一年一組、萌木明日奈です。よろしくお願いしまーす。 でも文芸部のメンバが全員集まるの、コレ初めてだよね? あたしも知らないヤツいっぱいだもん。 キリちゃんは一年だから知ってたけどさー、それでもあんま、話したことなかったもんね。怪談好きなんて知らなかったよ。 あたしはあんまり怖い話って好きじゃないんだよねー。だってなんか、理不尽じゃない? 幽霊って殴れないし、なんか動画とか見ただけで呪ったりしてくるんでしょ。理不尽感パなくない? あー、苦手ってほどじゃないし、夜にこういう会するのは面白そうだから、別にいいんだけどさぁ。でも、そんなだから、あんまり怖い話はできないかもだけど、一応、集めてはきたから。うん、実話っぽいやつで、よくある怪談とはかぶらないようなやつ。 キリちゃんの好みに合わなかったらゴメンね。 これは、あたしのお母さんがしてくれた話ね。 実はあたしのお母さんって、あの女子高に通ってたのね。学区内だし、高校の名前は皆知ってると思うけど。 え、あー、お嬢様学校? あ、そうかも? ミッション系だし、制服可愛いしね。 うちは親子三代、お姉ちゃんまではそこの女子高出身なんだ。本当はあたしも目指してたんだけどさ、ダメでさぁ。 まー、落ちちゃったんだよね、うん。そこ、あんまり触れたくないというか…… あ! そんなことより、怖い話、だよね! あたしがこれからするのは、その女子高であった話なワケ。 お母さんが二年生の時にね、隣のクラスの女の子が亡くなっちゃったんだって。 病気じゃないよ、自殺。授業中にね、突然、どさ、って大きな音がして、お母さん達が窓から下を見たら、女の子が倒れていて。 クラス中、大騒ぎになったって。 お母さんは話したことない子だったみたいだけど、同学年だし、他の子はけっこう知ってた子もいたんでしょ。ショックで泣き出したり、ぼーっとしたりで、とにかくその日は家に帰されたけど、皆落ち着かなかった。 お母さんもね、知らないなりに人が死んだのはショックだったって言ってた。 そんな状況じゃ、家に帰りたくないんじゃ、って言ったら、お母さん真面目だから。校則で寄り道禁止だから、ってホントにちゃんと家に帰ったみたい。 うん、お母さんカタブツなんだよねー。別にあたしやお姉ちゃんにうるさく言ったりしないからいいんだけど、その頃は浮いてたんじゃないかなぁ。 だって、他の子はやっぱり、喫茶店みたいなところ? に集まって、色々話してたみたいなんだもの。 そんな感じでお話してた子たちの間じゃ、もう困惑、戸惑いしかなかったみたいなんだよね。 いくら考えても、自殺の原因が分からないってことでさぁ。 すごく悩んでいた感じもしなくて、友達や家族と揉めてた訳でもなさそうで。恋人がいなかったから、そういうトラブルもなさそうだし、いないことを悩んでる訳でもなかったみたいだし。 いやもう、ホント分かんない、ってなったんだって。 もちろん、自殺の理由なんて当人にしか分からないっていうし、不思議じゃないのかもしれないけど。でも、身近な人にとっては、やっぱり分からないものは信じられないし、受け入れられないじゃん? でも自殺じゃない、なんてことはないの。当人が自分で飛び降りるのを見た人って一人じゃなかったし、自殺以外の線はまったくなかったんだよ。 皆が落ち着かない中、お母さんね、変なことに気づいたんだって。 変? ではないのかな。でもお母さんは変だと思ったんだよ。 先生方がね、生徒とは対照的に落ち着いて見えたんだって。 そりゃ、大人だしね。生徒みたいに騒いだりはしないだろうし、表面上はツクるでしょ、ってあたしは思ったんだけど、お母さんが感じたのは、そういうんじゃないっていうんだよね。 なんか慣れてるというか、いつもの、というか。そんな感じ。 でもそんなことあり得なくない? 生徒が学校で自殺って、大事件じゃない? 少なくとも、うちの高校でそんなのあったら普通じゃなくない? ましてや女子高でしょ? 変じゃん。 だからね、お母さん、調べたんだって。 あ、うん。お母さんはちょっと……いや、かなり? 好奇心旺盛なんだよね。なんか物事が気になると、つい調べちゃうっていうか。 近所の人に聞いたり、卒業生と連絡とったりして、ついにある事実を掘り出しちゃったワケよ。 やっぱり初めてじゃなかったの。 しかも、二回や三回じゃない。あの女子高では三年に一度、かならず自殺があって、しかもそれは必ず二年生の、あるクラスの窓から飛び降りると決まっている。 なんで話題にならなかったのかって? 地味なところなんだけど、三年に一度、だからじゃないかな。三年に一度しか起きないなら、在校中は一回しか遭遇しない訳だし。年代の違う卒業生が一堂に会する機会がまずないし。 まぁ? うちは親子三代だからさ。おばあちゃんに話した時には、そういえば私もね、という程度の話は出たらしいけど、それくらいじゃ毎回なんて思わないじゃん。たまたまおばあちゃんとお母さんの代に、自殺者が出ちゃった程度にしか思わないじゃない。それに、おばあちゃんの時に亡くなった子は同学年じゃなくって、後輩だったみたいだから、クラスまでは分からなかったみたいだし。 あんがい、気づかないものだよ。少なくとも、おばあちゃんは気に留めるほどではなかったみたいだもの。 え? そんなところによく行く気になったな、って? あー、今じゃもう、その自殺は起きてないからね。現に、お姉ちゃんは、フツーに何事もなく、すこやかーに卒業したよ。 どうしてやんだかって? お母さんがね、えげつないんだよね。一部の父兄を煽って、学校脅して、お祓いやらせたらしいんだよ。 で、そうしたらなくなったんだって、自殺。 え、怖、って思ったよ。だってお祓いで治まるんなら、それってマジで霊現象でしょ。しかもお祓い程度でどうにかなるんなら、もっと前にやっておけばよかったのに、誰も思いつかなかったんだよね。 おばあちゃんの代からお母さんの代まで、下手したらもっと前からだから……どんだけの、自殺する理由がなかった生徒が亡くなってるんだろう、って思ったら、なんかね。 あたしさ、怖い話は嫌いだし、心から信じている訳じゃないんだけど、そういう話を聞くと思うことがある。 信じないものって、対応できないってことでしょ。 だからあたしは、そういうのって、馬鹿にはしないようにしている。 だって死にたくないしねー。
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