第四話 文芸部唯一の二年生は自身の体験を語る

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第四話 文芸部唯一の二年生は自身の体験を語る

あれ、桐谷さんの番じゃないの? 僕の方が先? ……ああ、そうか。桐谷さんがトリに回るなら、十番目の方がいいのかもね。 文芸部以外のメンバははじめまして、の人も多いんでしょうか。 二年三組、我妻です。よろしくお願いします。 ええと……怪談、を話さないといけないんですよね。 付け焼刃で色々仕入れてみましたが、どれも有名そうなヤツばかりで……え? ネットで有名な話はダメ? おい、聞いてないぞ、それ。だって怖い話だったら何でもいい、って言ってなかったか? 桐谷さん、有名な話じゃ面白くないって……それ、君の好みの話じゃないのか。瀬戸先輩のリクエスト? そんなの、最初に言ってもらわないと困るじゃないですか。 ……参ったな。 分かりました、僕の確認不足でしたね、すみませんでした。 では、僕が知っていて、あまり有名じゃない話をすればいいんですよね? 大丈夫ですよ、部長。単純な「こわい」話のストックだけなら、ありますとも、ええ。 単純に「こわい」話でよければ、ですけどね。 では、はじめます。 ここにいる皆さんは、電車通学でしょうか。徒歩通学でしょうか。それとも自転車通学? 僕はちょっと歩ける範囲じゃないんで電車通学なんですが、二、三駅の人だったら自転車通学の人も少なくないみたいですね。 まぁ、そうですよね。 うちの高校の最寄り駅の沿線って、とにかく人身事故が多くて、朝も帰りも運転見合わせだのいつ再開見込みだの、そんなアナウンスばっかりでしょう。正直、うんざりを通り越して、無感動になりますが、面倒ではありますよね。 絶対使わないといけない、という訳じゃなければ、出来るだけ避けたいと思うんじゃないでしょうか。 つい、一週間ほど前の話です。 幼なじみ……まぁ、横のコイツなんですけど、コイツが一緒に帰ろうと誘っておきながら仲のいい先生と話していてですね、僕を待たせているのをすっかり忘れていたせいで、帰りが異常に遅くなったのがケチのつき始め。 ようやく教室に戻ってきたコイツと最寄り駅についた頃には、うちの学校の生徒がほとんどいない時間帯。夕方のあの駅なんて、下車する人ならともかく、乗車する人はうちの高校の人くらいしかいないものだから、見事に僕らだけだった訳ですよ。 そう、僕らだけしかいなかったはずなんです。 待つこと五分ほど。 ようやく電車がやってきて、ホームに入ってきた瞬間、突然電車が汽笛を鳴らしながら急ブレーキをかけたのです。 耳を割くような音に、思わず耳をふさいだ僕の足元に、何かがどさりと当たりました。 僕がそれを見るより前に、真悟が、コイツが大声で止めてきました。 「見ない方がいい」 なぜ、とは聞きませんでした。何となく、見当がついたから。 駆けつけてきた駅員が僕の足元にブルーシートをかぶせ、色々こちらの心配をしてくれました。 僕としては、靴が血まみれになっていないなら、何でもよかったんですけど。駅員さん的には、頭が当たった時、怪我していないかも気になったんでしょうし。 はい、そうです。僕の足元にあたったのは、人の頭でした。 電車にはね飛ばされた人の頭が、ホームの、僕のところまで飛んできたんですね。 え? 何ですって? 「こわい」話、ってそういう話じゃないって? ……まぁ、文芸部の皆さんならご存じのとおり、僕が遭遇しやすいのは死体の方ですからね。怪異ではなくて。 でも普通の人には死体でも怖いんじゃないですか? だって死体ですよ、死体。大半の人は悲鳴上げますね。 はいはい、騒がないでくださいよ、先輩。 そうは言いましたけどね、この話はちゃんと「こわい」話ですよ。 瀬戸先輩、良く思い出してください。 僕は言いましたよね。「僕らだけしかいなかったはず」と。 つまりホームからの飛び降りではなかった、ということなんです。 ではその首は、どこから出てきたんでしょうか。 電車が急ブレーキをかけた……ホームから飛び降り、そして轢死体となったその人物はどこから? そして何より、ホームから飛び降りて電車に轢かれた人間の首が、首だけが綺麗に切り離されて、ホームに飛んでいく、なんてことは本当にあり得るのかどうか。 まぁ、物理的にあり得ない、とは言えないのかもしれませんが、相当めずらしいケースなのは確かですね。うまいこと首が切れる位置に車輪なり何かがあたって、さらに首がホーム下ではなくホーム上に飛んでいく可能性。 少なくとも、僕はほとんど聞いたことがありませんね。 そうですね、確かに不可解ではありましたが、確かなこととして。 電車は人を一人ひき殺し、そこに遺体が転がっている。そして、その遺体の身元自体は判明しており、実在の人物であること。 ただ、なぜそこで死んだか、という点だけは謎。 本来ならその駅に来る用事すらないその人は、なぜそこで死ななければならなかったのか。 答えは分かりません。分かりませんが―― それこそ人ならざる者の導きだったのかもしれません、ね。
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