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第六話 カタブツの一年生は遊技場の怪異を語る
一年一組、文芸部の御桜です、よろしくお願いいたします。
それにしても怪談会ですか……こういうこと、本当にやろうとする人いるんですね。
私には理解しかねますが、部活動の一環であれば致し方ありません。
これは、私の従兄弟の友人から聞いた話です。
私の従兄弟はいたって真面目な優等生タイプの人なのですが、友人に一人、毛色の変わったタイプの人がいました。
見た目からしてチャラい人で、見た目通りのちゃらんぽらんな性格をして……非常にけしからん人なのですが、なぜか従兄弟とは仲良くしているようでした。事情は聞きませんけどね、なんかあるみたいです。
ええ、私は苦手ですよ。相手も、私みたいな生意気な年下は気に入らないでしょうから、何かと絡んできますしね。まぁ、そんなこと言えば従兄弟が困るだろうから、言ったことはありませんが。
とにかくふざけた人ですが、一つだけ尊敬できる点があるとするとですね……すごくゲームが上手いんです。
え? ああ、私が言ったのはパソコンとかゲーム機でやるゲームのことですが、ボードゲームの類もけっこう強かった気がしましたね。将棋とかチェスとか、あの辺も得意でした。
私もゲームは好きなんですが、その、あまり上手くないのです。だからゲーセンとかのゲームは絶対にやらないですね。あと対戦型のオンラインゲームとかもやらないです。上手くないですからね、相手の反応が嫌じゃないですか。
ああいうの、下手だと罵られますからね……はぁ。
……話がそれました。
彼ほどゲームが上手かったらゲーセンでも楽しいんじゃないかと思うんですが、友人と一緒でないとあまり行かないそうです。
理由を聞いたことがあるのですが、その時は、あまりゲーセンにあるようなゲームに興味がない、みたいなことを言っていた気がします。だけど、今からする話を聞くと、行かない理由は別にありそうですね。
その時も、彼は友人に誘われて、駅前のゲーセンにいたそうです。
彼の地元の駅なので、ここの皆さんが行くことはあまりないと思いますが、後で場所を知りたい人にはお教えしますよ。それくらいヤバいゲーセンなので。
はい、ヤバいゲーセンですね。
とはいえ、人によってはバカバカしい、と思っちゃうんじゃないでしょうか。
その理由はこれからお話しますね。
彼がそれに気づいたのは、友人たちの対戦を見ながら、壁近くでジュースを飲んでいた時だそうです。
割と混雑している中、一つだけ空いた席がある。
その機体のゲーム自体はかなり人気のあるもので、人の多いそのゲーセンだと比較的、埋まることが多いものだったそうです。
なのに、そこだけが不自然に埋まらない。
そちらを見ていることに気づいた友人の一人が、彼にこう忠告したそうです。
「あの席は、座っちゃダメだ」
「は? 何、めちゃくちゃ性質の悪い対戦相手にあたる台なの?」
冗談めかしていったものの、友人は無常に首を横に振りました。
「ううん、あそこは追悼台だから」
「ツイトウ台って……誰か死んだの? マジで?」
うん、と頷いて、友人は神妙な顔で教えてくれたらしい。
その席は、この店の常連の一人が指定席レベルに気に入っていた場所だったそうです。
でもその常連は、ある日、心臓発作を起こして、よりによってその席で亡くなってしまいました。
彼の友人はたまたま居合わせたそうでしたが、大変な騒ぎだったそうですよ。
以降ね、その常連さんのために、その席を空けてあるんだそうです。
一見、美談に聞こえるんですが、彼は嘘のにおいを感じていました。
そりゃすごい田舎で、誰もかれも顔見知り、みたいな店だったら、そういうこともあるでしょうね。
でもここは駅前店、いくらゲーセンが斜陽だっていっても、やはりそれなりの人の入りです。
そんな場所で、追悼のためだけに店側が席を空ける訳がない。
つい気になってその席を見ていた彼は、あることに気づきました。
その席に近づく人自体は、まったくいない訳ではないのです。ただ、そこに座ろうとすると、周囲がじろりとにらんできて追い払われてしまうだけで。
なるほど、店側の気遣いではなく、周りの常連さんの空気のせいか、と。
もし追悼のためだとしたら、ずいぶん過激では、と思いはしたけど、もちろん口を挟むほど野暮でもない。
何となく白けてしまい、彼もその席から興味をなくしてしまいました。
そのまま友人の対戦を観戦していると、突然、周囲がざわりとどよめいて、彼は思わず音の方を見たのです。
空けられた席に、いかにもガラの悪そうな学生が座っていました。
その学生は、周囲の不興などむしろはねのける勢いで、その台で遊び始めていたそうです。
さすがにアッチ系のヤツじゃ無理だな、と冷めた目で見ていた彼は、何気なく友人を見て、戦慄しました。
友人は、薄ら笑いを浮かべていたのです。
彼ってあまり動じないタイプだと思っていますが、その彼でもゾッとしたそうです。
追悼台に座られた、と思うなら、到底浮かべる笑みではない。
その時、彼は確信しました。
ああ、そうだ。やっぱりあの席を空けていたのは、追悼のためなんかじゃない。
あれはまさか――
それから三日後のこと。
ある高校で、一人の男子生徒が校舎の窓から転落し、亡くなったそうです。
窓には転落防止用の金属棒があったにもかかわらず、その棒が破損して、寄りかかっていた彼は窓から転落してしまったのだ、と。
世界には、座っただけで死んでしまう椅子、というものがあるそうですね。
だとしたらそのゲーセンの席もまた、座っただけで死んでしまう席、になるのでしょうか。
ね、ヤバいゲーセンでしょう?
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