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第八話 断れない男子生徒は望まぬ会に行く
……一年二組の堂橋新太。普段は剣道部。
頼まれて他の部活のメンバ合わせに協力することがあって、そんな流れで頼まれた感じ。
つっても、文化系クラブの、こんな会合に協力させられるとは思わなかったけど。
まぁ、孝す……緑谷先輩が困ってるっていうから受けたけど、普通だったらこんなん絶対に受けないっつーの。
基本、怖い話なんて作り話か幻覚じゃん? 幻覚が言い過ぎなら、思い込みじゃん。
そんなもの、高校生にもなって面白がるようなモンじゃないだろ、って話。
……別に怖い訳じゃない。怖い訳ないだろ。人間に比べたら、幽霊なんて何をしてくる訳じゃないんだから。
死んだヤツが何出来るっていうんだよ。
は? ノーガキはいいからさっさと始めろ? ガキ……ってさすがにいくら先輩だからって……え? ガキじゃない? ノーガキの意味? は?
……なんか、すげー哀れみの目で見られるの、意味わかんない。
分かったよ、なんかそれっぽい話、すりゃあいいんだろ。
まー、そういう会みたいだし、オレが信じていようがいなかろうが、そういう話が聞きたい連中が集まってる訳だし、いちおう空気は読むよ、うん。
あれは高校に入ったばかりの頃だな。同じクラスの奴等で、肝試しをしようって話になったんだ。
さすがに知り合いになったばかりの奴らが、ちょっとした親ぼく会をやる程度のことじゃん。だから場所もそんなにヤバいところは選ばなくて、学校の心霊スポットっぽいところ。
や、オレは言った通り、お化けなんか信じてないし! その時も本当は断ろうと思ったんだよ!
だけどオレ剣道部なんか入ってるもんだから、なんかあった時にいてくれると助かるって言われると断れなくてさ……
肝試しとか廃墟巡りってさ、本当に怖いのはお化けじゃなくて、そこに居ついてる不良とか変質者なんだよ。いくら学校内って言ったって、うちの学校って、あんまり人家が多い場所じゃないし、女子もいるし。確かに運動部のヤツがいた方がいいだろうなって。
……まぁ、孝介には呆れられるんだけど。
あ、ええと緑谷先輩、うん。
え? 別にいい? え、でも皆からしたら、先輩を呼び捨てにしてるの変じゃん。
気にしないって、あー、文化系だもんな。
ああ、孝介はオレの……うーん、オレの父さんの弟だから、叔父さんってことになるのかな。
カツオくんとタラちゃんの関係? 良く分からないけど、そうなのかな。
あー、そうそう。肝試しの話、な。
肝試しの舞台になったのは、グラウンドの横にある、部活棟の内、一番山側に近いところにある二階建ての木造の建物だよ。
他の部活棟は、アパートみたいに廊下が外で、壁なんかないじゃん? だけど、一番古いあの棟だけは、ちょっとした校舎みたいな作りになってて、廊下も階段も屋内。木造で奥まったところにあるから、電気をつけても何だか古くさくって、確かにオレでも不気味だなーとは思ってた。
あんな不気味でも壊れてはいないから、普段はちゃんと使われてる。とはいえ、運動部が着替え程度に使うには立派過ぎるせいか、あの部室棟に入ってるのは、演劇部だけだ。
別に他の文化部でもいいんじゃないかと思うけど、荷物が多くて複数の部屋を使いたいって事情があるせいかな。あの部室棟にある、三つの部屋を全部、演劇部が占拠してる。
え? あー、そうか。やっぱり知らない奴は知らないんだな。
確かに、あの部室棟は二階建てだから、全部で六部屋。つまり、演劇部が使ってる部屋はその内の半分、一階部分だけ。
二階は使われていないから、って理由で、普段は立ち入り禁止になってる。
もちろん、使われてないから、って程度の理由だから、分かりやすくロープや机で封じちゃいないんだけど。
……そ、幽霊が出るって言われているのは、その二階。
二階の一番奥の部屋が開かずの間になっていて、そこに出るって話なんだ。
どんなヤツかは分からない。人によっては、いかにも幽霊って感じの、髪の長い女が血だまりの中にいたっていう。別の人は、制服を真っ赤に染めた女子高生が立ってたっていう。はたまた別の奴は、暗そうな男子生徒がやっぱり血まみれで立ってたっていう。
もうめちゃくちゃだろ? 話を聞いただけで、いい加減過ぎて目まいがしそう。
肝試しを決めたヤツに至っては、噂の内、血まみれの部屋、ってやつしか知らなかったよ。
とにかくオレ達は肝試しをするにあたって、まず下準備としてその場所を見に行った。
昼休みに行った時にはさ、まだ日が高くて、それなりに明るいはずだったんだけど、確かに噂が出るだけあるよな。
なんか二階だけ、妙に暗い。
近くの建物とか木の関係なんだろうけど、なんか一階に比べても暗いんだよな。お化け話が出るだけあるよ。
で、その開かずの間って言われている部屋に辿り着いた。
大体、開かずの間って言われてるのに、その部屋で幽霊見たー、なんて変な話だよな。だからオレは、使われていないから開かずの間って言われているだけの、カギすらかかっていない空き教室なんだと思ってた。
なのに、実際に言ってみたら、本当に開かずの間なんだよ。
ちゃんとカギがかかってるし、ちょっとガタガタやったくらいじゃ空きそうにない。
「ここ、入れないんじゃ、肝試しにならないんじゃないか?」
「えー、こんなん雰囲気を楽しめればいいんだから、部屋に入る必要ないって。この部屋の前に箱置いて、ここにある紙を取ってきてもらう、ってことでいいだろ」
準備の奴らとそんなことを言いながら、廊下に箱置いたり、怪我をしそうなゴミがないかを確認して、オレ達は教室に戻った。
そして放課後。
さすがに夜って訳にはいかないけど、明るいと肝試しにならないだろ?
だから六時頃にしようってことになったんだ。
下校時刻が夜の七時だから、まぁ、なんとかギリギリかなって。
本当はもっと遅い方が、なんて言ってたけど、この会みたいに先生を巻き込んでちゃんとした形でやるほどのものでもないし。かなりいい加減な感覚で始めたんだ。
でも、四月頃の六時は、予想以上に暗かった。
最初の見込みだと電気をつけないでもいいかな、と思ってたんだけど、さすがに足元が危なそうだから懐中電灯を用意して、二人一組で回ることにしたんだ。
回るって言っても、建物の二階にいって、廊下前の箱から紙を取ってくるだけ。突貫の企画だけあって、本当にきゃーきゃーいうのが目的って感じの、ネタだったな。
そんなのでも、建物が不気味なせいか、女子なんかはかなり怖がってたな。いや、本当は男子も怖かったのかもしれないけど、そこは冗談めかしたりしてごまかしてた。
最後の順番……トリに回ったのは、オレと女子二人だった。
え、あ、うん。オレがトリだった。人数が合わないから、最後の組だけ三人で回るってことになって、じゃあ堂橋君と誰かねーって流れになって、なんでだろう、と思う間もなく勝手に決められてた。
ああいうこと、なんか多いんだよな、オレ。運動部だからへーきって思われんのかなぁ。
で、オレ達が最後に、二階に上っていった。
さすがに最後の番となると、七時に近づいてたからさ。電気をつけない建物の中は、本当に暗くて……さ。ちょうど演劇部もいない日だから、一階部分からして、うっすらとしか見えなくて。
懐中電灯の明かりだけを頼りに、オレ達は慎重に階段を上った。
最初の内は、後ろの女の子たちもきゃあきゃあ騒いでたんだけど、なんだか途中から無言になってった。
オレが怖かったんじゃないかって? それもあるのかもしれないけど、オレからすると、予想以上の歩きにくさのせいじゃないかって思うよ。
だってマジで、暗いんだもん。
オレが先頭で懐中電灯を照らしながら、後ろに声かけつつ、はぐれないように進んでったけど、足元なんか全然見えなくて、懐中電灯なしで歩くのは、マジで難しそうだった。
正直なところ、怖いかどうかより、女子が転落したりはぐれたりする方がイヤだったな。
二階の端に辿り着いた時、いろんな意味でホッとしたよ。あ、これで戻れるって。
だからオレは、気づくの遅れたんだ。
女子が悲鳴を上げて、オレはとっさに横を――教室の方を懐中電灯で照らした。
そこで、確かにオレも見たんだ。
教室の中に、真っ赤な何かが立っているのを。
最初はいたずらか不審者だと思った。だからオレ、身構えたまま怒鳴りつけたんだよ。誰だ何をしてるんだって。
そうしたらソイツの反応より先に、女子が悲鳴を上げて逃げ出したものだから、オレ、あわてて追いかけたんだよ。
だって懐中電灯持ってるの、オレなんだから。彼女たちがあわてて走って、階段から落ちたら大変じゃないか。
現に、あわてて逃げた内の一人は階段から落ちて、その声を聞きつけた他のヤツらが一階の電気をつけて――大騒ぎになった。
先生も来ちゃって、二階に入ったことがばれて怒られて。女の子は保健室に運ばれて、他のヤツらはまとめてお説教。
そこでオレはやっと、不審者のことを思い出して、先生に話したんだよ。
先生はオレの話を聞いた後、何とも言えない顔をした。
今から思うと、ヘンな反応だったな。バカなことを、と怒るでもなく、焦るでもなく、そうか、とだけ言って二階を見ようとするそぶりもなかった。
オレが、嘘じゃないですって強く主張してようやく、先生は重い腰を上げてくれた。
先生とオレ、そして複数の男子で、今度はちゃんと明かりをつけた状態で二階にあがっていった。
そして――先生は廊下の奥までいき、オレに部屋を示した。
「扉、閉まってるね」
そこでオレはやっと、さっきの異常事態に気づいたんだ。
空いてた。あの時、確かに部屋は空いてた。あれから誰も上がってない。勝手に扉が閉まる訳ない。
でも、だけど、じゃあなぜ扉は空いて、そして今、閉まっているのか。
やっぱり中に誰かがいて、開閉したとでもいうのだろうか。
オレは中に人が隠れている可能性を主張した。そこで先生は職員室までカギを取りに行ってくれて、その部屋を開けてくれた。もちろんその間、オレと何人かの生徒がその場に残って、部屋を見張っていた。
先生は、ため息をつきながら、カギを開けてくれた。
そこでオレは、とんでもない光景を見た。
バッテンの形に張られた板。そしてその板の間から、うっすらと見えた室内は――
何があったのかは知らない。オレは見たままをいう。
板の間から見えた床には、なんだか赤黒いものが一面に散っているようにみえた。
血まみれの噂が立つわけだよ。あれ、たぶん元々は赤色をした何かがまき散らされたんだ。
赤色の何か、なんて、ずいぶんあいまいだって? そりゃ、知らないから断言はできない。でも、みんなが考える通りだ。
オレも、あれは血液なんじゃないかと思う。
そして、うん、まぁ……言わなくてもわかるよな。
板で封鎖された部屋に、人が入れるわけがない。さらにいうなら、たとえ何らかの手段で、誰かがその部屋に入り込んでいたところで。
あの時のように、オレにはっきり視える訳がない。
そう、板が邪魔になって、ちゃんと見える訳がないんだ。
……オレの話はこれで終わり。次は誰の番だ?
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