白雪姫に失恋

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白雪姫に失恋

「ごちそーさまでした! おばさんの料理ホントおいしいっ」  笑顔全開。  可愛い過ぎるその顔に、コップを手にする目測を誤って、ぶちまかすとこだった。  黒檀の黒髪に雪のような肌。唇は雪に落ちた血のようなっていう、正に白雪姫のようなゲロ可愛さ。 「やーもう、(きずな)くん。本当に可愛いっ! 食べちゃいたいっ」  姉ちゃんが赤とピンクの斑色の爪した指を伸ばした のを見て、俺は慌てて絆の腕を引っ張った。 「絆、行こうっ! マジで食われそうだ」 「山登(やまと)とか可愛くないーっ、絆くんが弟のがいいー!」 「うるせー、ばばぁ」 「あら、やだ、母さん、言われてるわよっ!」  キッチンに顔を向ける姉ちゃんを鼻で笑ってやる。 「お前に言ってんだ、ばばあ」 「はあ? あんたっ、殺……っ」  けっこうガチの言い争いになりそうな姉弟の間に、      無邪気なキズナの声が割り込んだ。 「俺も、知紗(ちさ)姉みたいな綺麗な大学生のお姉ちゃん欲しかった! 絶対自慢できるもんっ」  とたんに和む場の空気。 「きゃー! きゃわいいいー!」 「……行くぞ、絆」  親同士が同じバンドのメンバーだった俺たち、同じ年で、親の勧めもあって、なんとなくバンドを組もうかってことになった。  ──なんとなく。  なんて、ま、そんなん建て前だけど。  中1の時、転勤族だった絆の親父さんが転職して地元に帰ってきたとやらで一緒に現れたのは、滅多にいない美少女。  俺は一瞬で「恋」を知ったね。  所謂一目惚れってやつ。  が。  五秒後の失恋で、俺を世の無常を知ったっけ。     ………男って……。  白雪姫に俺と同じもんがついてて、同じもんがないなんて……。    その日傷つけた俺のオデコは治ったが、部屋の薄い壁は凹んだままだ。
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