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白雪姫は肉食男子
スタジオからの帰り道。
飯食って帰ろうと駅前まで出てきたものの、目当ての店が混んでたから、空くまで待とうかとブラブラしていた。
明日も練習するからとギターはスタジオに置かせてもらって、とりあえず俺の肩は軽いもんだから、心も軽く、美人と一緒で楽しいデート気分だ。
ウインドウショッピングよろしく歩いてたとき、道を挟んだ街頭の下で、フォークギターを手に歌ってるニイちゃんを見て、あることを思い出した。
「そいや、なあ絆、キョウの弟、覚えてるか?」
「ああ、あの可愛げのない奴な。路上で一人頑張ってるよ」
「……なんだ、俺より詳しいんじゃんか」
「ちょいまえの日曜、目撃した。一緒にいた女が俺そっちのけで食いついてたわ」
一緒にいたオンナ。
その言葉に、白雪姫への一目惚れからもう四年半の俺の胸がチクっと痛んだのはご愛嬌だろ。
少し会わない間に、絆は童貞をきったどころか、オンナと遊び歩くようになっていた。
そんで、一人のオンナに絞らないことにまだ救われるって思ってる俺は、なんというか、乙女だと思う。
皮肉にも実際乙女のような容貌の絆は、すっかり肉食系だけどな。
「いやーん、可愛いーつって。可愛いか? アレ、あんなデカイ奴が?」
絆は自分の容姿が並じゃないせいか、可愛いっていうのがサイズに変換されるのかもしれない。
ライブで知り合ったキョウの弟は、ハーフっぽい、既にイイ男になりそうな雰囲気を垂れ流しにしてる系の、背の高い可愛い子だった。
「絆は自分がチッコイから、自分よりデカイ奴みんな憎たらしいんだろ」
「はーはーはー。憎いねえ。俺よりデカイ野郎は消えて欲しいもん。まず、山登を抹殺だな」
「いやいや。んなもん、世界から成人男子がかなり減るっつの。少子化に拍車かけんなよ」
「そこんとこは俺がフォローするから大丈夫」
下世話に腰を前後に揺らす絆。
見た目と、下品さが釣り合わん。
「それ、やめなさい絆さん。ほれ、あっちの女が妊娠するぞ」
そんなこといい言いながら、一瞬、絆に似た子供の集団を想像して、それに囲まれるのもアリかと思う俺は、そこそこ馬鹿なんだよな。
「で、おとーとが、何?」
「いや、ギターもう一本増やそかなって話してたらさ、じゃあ弟どうよ、ってキョウが」
「はあ?」
「先週会ったとき言われてたの、忘れてた。んでさ、一回会ってみねえ?」
「あいつぅ? ええー、それどうなの? まだちゅ……」
「ねえねえ君らぁ」
間延びしたような甘ったるい声に振り返れば、そこには派手いギャルが2人。
「なんかぁ、今うちらヒマなんだけどぉ」
俺の好みとは随分路線も毛色も違うけど、かなり可愛い部類だと思う。
……って、逆ナン!?
一呼吸置いてその事実に気づいた俺を尻目に、絆はニッコリと艶やかに笑った。
「じゃ、どっか行く?俺らもヒマだし」
「え、ちょっ、絆っ」
「せっかくの週末なのに野郎2人で華ないなぁって思ってたとこ。な、山登?」
同意を求められてもただ慌てるだけで何も返せなかったけど、心の中じゃあ、絆以上の華なんてないって、浮かんでた。
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