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嘘じゃないけど嘘
「………っいってっ…」
「…………」
痛いって言葉の上はなんだろう。
もっと痛い?
いや、この痛みはそんなもんじゃない。だって一瞬意識が飛んだもん。
「………昨日の夜、番号だけの着信があったんだ……」
でも、絆が何に対しての言葉を吐いてるのか理解するのにちょっと時間がかかったのはそのせいじゃない。
俺の下に、絆の体があったから。
早いリズムを刻む鼓動が耳を打ち、怒りのせいか、あったかい体からたちのぼる甘い香りが鼻腔を満たしたから。
───くそっ。
なんで俺んじゃないんだっ!
くれよ。
俺に、全部、くれよっ!!!
もう、マジで、どうにかなりそうだ。
だって。
番号だけの着信で清澄ってわかるってのは、清澄の番号を覚えてるってことだ。
なら、覚えてるその番号はずっと変わってないってことで、それが番号だけになってるのは、清澄を削除したからだろ?
どんな思いで削除したんだって思うだけで。
心が、煮立つ。
いや。
ちょっと待て。その電話に……。
「出なかったけど」
俺の心中を読んだみたいに返される答え。
「……つか、どけよ。重いんだよ」
グッと肩を押してくる絆に、大げさに眉をしかめた。
「……ちょ、いま…むり……動かさないで…痛いから」
嘘じゃないけど、嘘。
せめてもうちょいだけ。
おまえを感じたいから。
「あの人、中学のときからジークンドーやってんだ」
「……は?」
「護身用に始めたって。ブルースリーが作った流派とかなんとか」
おいおい。
格闘技じゃねえか。
「……どうりで」
ん?
「ちょっと待て、お前っ!! 前に殴られたって……うっ……かはぁ……」
慌てて少し上にある絆の顔を見上げたら、その急な動きに軋む体が文句を言った。
「ああ、まあ、今の山登見たら、あれ、かなり手加減してたんだって思うわ。痛そ……」
細めた眼が、そこにある。
指が───頬に、口角に、這わされる。
ああ。
キスしてくれたら、治るのに。
……はは。さすがに、それはないか。
まあ、治らないけど、痛みは忘れる。
抱かせてくれるなら、痛みは、吹っ飛ぶ。
見つめあったら。
やばい。
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