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ささやかな日常
「久しぶ……うわ、山登さん、何すか、その顔」
「これでも随分マシになったんだから」
肩をすくめて俺の方を顎でしゃくる絆に、トマはへー、と頷いた。
「トマ、格闘技してる男の嫁には手出すなよ、こうなるから」
「はあ? おま、人妻はだめだろ」
肩に圧力を感じて振り返れば、カズがわざとらしく目を見開いて笑ってた。
「よお。おま、おせーし」
「うーわ。いい色してんなぁ」
今日は樋口がドラムで加わってる元、女の子、現、白一点バンドがライブに出るってので、ロジックゲートの元メンバーで冷やかしに来ることになったんだけど、もう、ね、会う人会う人に顔の変色に触れられてすごく面倒。
学校でも当然騒ぎになって、血気盛んなご学友が「お礼参り」的な行動に出てくれようとしたから、全力でお断りして、先生だってまあ黙って見過ごすはずもないから、痴話喧嘩なんで、なんてごまかしたら、担任が尻に敷かれてるなぁ、なんてトンデモな答えを返してきた。
最初こそ傍にいる絆が申し訳ない半分の複雑そうな表情を見せるのがちょっと嬉しくはあったけど、もともと俺が勝手にやったことなわけで、回数を重ねるごとにこっちが辛くなってくる。
ほら、今だって可愛い顔を苦笑いに歪めてる。
「つかトマ、お前んとこのバンド、やっとボーカル決まったらしいな」
さっさと話を変えようと振った俺に、トマは、うーんと顔をゆがめた。
「全然駄目。見ててイライラする」
トマの通う工業高校で、バンドの言いだしっぺが見つけて熱心に口説き落としたらしいボーカルは、完全な初心者らしい。
バンドに加わって日も浅く、まだ生の音に慣れてないだけだろうけど、中学で俺ら既存のバンドの中に入ったトマは一から作り上げるってのに慣れてないから、まともに一曲も演奏れないことにフラストレーションが溜まってるみたいだ。
仏帳面のトマに、絆が小さく声をたてて笑う。
「悪いとこばっか探すからイライラすんの。いいとこ探してやれよ。あるだろ?言ってみ」
「歌詞間違えない」
狙ってるとしか思えないトマのきっぱりとした言葉に、絆とカズが爆笑した。
「それは才能だな」
「へぇへぇ。俺にはその才能がございませんよ」
「けど、だから面白くない」
「あはは。間違っても、歌詞忘れても、演出のふりするようなボーカルだったからなぁ、前は」
でっかいトマにぶら下がるようにして肩を組み、その髪をぐしゃぐしゃかき回してる絆。
しかめっ面が緩み、ちょっとはにかむようなトマ。
なんとまあ、むかつく光景だろ。
これは何とかして引きはがさねばならんと思ったときだ。
「よおっ!おまえらひさしぶり」
このライブハウスを切り盛りしてる、年若い店長が笑顔で現れた。
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