不完全燃焼と微妙な完成度

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不完全燃焼と微妙な完成度

 自業自得とはいえ、絆の不完全燃焼感をカズもトマも知ってるから微妙な空気が醸される。 「絆さん居なくて、残念でした。あ、もちろん陣名さんも素敵だったけどっ!」  とってつけられた言葉に苦笑するトマ。  それに一層気まずそうに笑いながら下唇をかむ絆。   樋口の方にでも話を振るか、と思ったら、店長が空気も糞もなく話を引っ張る。 「ああ。らしいなぁ。絆くん、出てないんだって? 喧嘩別れとかじゃないのに何で?」 「それがさ、絆、めちゃ賢い学校行ってんの。こっから4駅向こうの某中高一貫男子校」  カズの言葉に、店長と女の子が大げさに目を開いた。 「あそこ? あのお坊ちゃん学校?」 「すごーいっ! 絆くんって頭いいんだっ!」 「山登落ちたもんな」 「うるさい、カズ」 「ね? 高校3年でバンドとか無理っしょ?」  真面目腐ってうんうんと頷きながら返すカズに、ならしょうがないわって空気が流れた。  当の絆はといえば、上目遣いに宙を見て、困ったように笑ってる。  なんかもう、その表情がデフォルトだ。 「じゃ、あれだ。せっかくだから、今日演って帰れば? 楽器貸すし。今からツイで告知するし」  あっさりそんなことを口にするスタッフ氏に、思わず間抜けな声が漏れた。 「は?」 「何を突然」 「えっ! 超見たいっ!」 「演ってくださいよっ! 私も友達経由で拡散するからっ」 「いやいや、急過ぎだろ」 「えー。演奏ってよ。使用料はいいからさ。……ここだけの話、今日のライブ、参加してるグループができたてのとこ多くてさ、そんでガールズだと、盛り上がりに欠けるんだよねー。水ものの売りも悪くて」  とりあえず失礼なセリフを吐く店長。  まあ、もう開始時間だってのにガラガラの店内見りゃわからんこともないけど……。 「つか、今日はガールズバンドの日なんでしょ? なら徹底しとこうよ」  結局ほかの奴らの表情見たって、もう断る気なんてないのはわかったからさ、ただ、店長の思惑通りに事が運ぶのもなんか癪な気がして、足掻くようなことを言っただけではあるんだけど。 「だからぁ、スネークロードはスネークっていったっしょ?あ、ほら」  「こんばんわー、初めましてー!」  顎で示されたステージ。  初っ端のバンドが裾から現れた。  まばらではあるけど、やたら派手な拍手と声援と口笛が客席から送られてる。 「あ、樋口ってここに出るんだよな?」  女の子が3人に樋口が加わった筈のバンド。  出来たてって割に人気もんだなぁ、なんて思いながら手にしてたペットボトルのキャップを外し、何気に口に運ぼうとしてた俺。 「ん? けど、女の子4人……樋ぐ…ぶっ」  口に含んでたら確実に霧散してたと思う。  なんとまあそこには、とりあえず微妙な完成度で作り上げられた樋口さんが、ミニスカートの端を指でつまみ、膝を折って挨拶してたから。
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