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駄目な位置
心臓を狙い撃ちされて言葉を失った俺にいたずらっぽい笑顔を残すと、長い髪とスカートを翻して、ちょっとした広場になってるアイス屋の前を突っ切り、花壇に尻をちょこんと乗っけて座り、アイスバナナチョコに舌を這わせた。
ま、周囲で何をするでもなくダラダラと過ごしてた野郎の目は、もともとその超絶美少女を見てたんだから当然釘付けだわ。
赤い舌が、カラフルなチョコスプレーを刷いた茶色を舌先で舐めとる。
黒のストレートヘアーのウィッグが醸す清純性と、思わせぶりな舌遣いとのギャップが……エロい。
長い髪を耳にかけ首を傾けてそれを舐める様にうっかり見惚れた俺は、近くにいた野郎が唾を呑む音で我に返った。
慌てて絆の前に駆け寄り、その姿を周囲から隠す。
「邪魔すんな、痣野郎」
なんて舌打ちとかが聞こえてきたのには、こっちが舌打ちしたいくらいだ。
「もう、終わり。寄越せ」
イラつきの感情そのままに絆の手元に手を伸ばして一瞬固まったのは、色々しょうがないと思う。
や。だって、ダメな位置だったんだよ。
腰を下ろした絆。
立ってる俺。
これは、まさに、その、位……置…。
くるんとした目で俺を見上げ、チョコに汚れた唇から差し出した舌が、所在なく宙を舐って……。
「勃った?」
「うるせえっ!」
腰をひく俺に、絆は呆れたように呟いた。
「……お前、ほんと、なんでもアリだな」
「はあ!?」
どんだけ人の気知らずだっ。
絆だから余計にクるんだっつのっ!
「確信犯が何言ってんだっ! そこら中の野郎がオっ勃ててるわっ」
「そか。女は大変なのな。俺、アイスチョコバナナ好きくない。やるわ」
絆はあっさりした態度で立ち上がると、バナナを押しつけてきた。いらねーよ、と言いかけて結局うけとる俺。
だってさ。
間接キスなんだ。
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