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本命の彼女
「あ、ヤマトじゃん。顔どしたんそのアザ」
「あれ?何、また、どこの美少女よっ」
駅前の食料品店までの道にあるクラブ前で、前に百合と行ったときに会った奴らとまた遭遇した。
「かーのーじょ」
得意気に言う俺に、絆が呆れたように苦笑する。
いや。ここは乗ってこいよ。
さっきはよその野郎にサービスしてたろうがよっ!
「え? マジ?」
「ついにガチ彼女? やばカワじゃん」
「でしょ? もうベタぼれ」
腹立ち半分、肩を抱いて頭にキスしたら、わき腹に肘を食らわされた。
「え、その痣、もしかして彼女が?」
「違う違う。どんなプレイだよ。つか可愛っしょ?」
「おー。こないだの子も可愛かったけど、段違いだなぁ」
百合は、あれでも可愛い子が多いって有名な女子高の準ミスなんだよ?
「こらこら。本命連れてきたら言うなつっといたろが」
「ワリワリ。あ、あれか、その怪我、遊んでたオンナ切って、そのときやられ──」
「いや、ほんと、俺、マジだから。リアルな話、今こいつしか見えてないんだ」
ここぞとばかりに漏らす、何年分もの本音。
「うーわ。べたべた。聞いてる方が恥ずかしいわ」
「山登ってガチカノにはそんな感じになるのねー」
「うん。好きすぎてやばい」
「……っちょ」
さっきの悪のりが嘘みたいに居心地のわるそうな絆に袖を引かれ、また歩き始めた。
そこで、ふと思う。
絆が女の子だったら。
俺はどうなってたんだろうって。
俺が友達ってポジでいるのは男同士だからだ。
そしてそれは絆にとって、恋人を超越した最上級の関係。
でも絆が女の子なら、俺はここには、いなかったろう。
清澄が手放してない気がする。
いや、ちょっと待てよ?
女の子なら、あの学校に行ってない。
そしたら清澄にだって会ってない。
でも。
俺とは会ってる。
俺が恋に落ちたあの日に。
なら、もしかしたら、今……。
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