想いの証

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想いの証

「やばい。俺、歩いて酔いが回ったかも」  嘘。  酔ってるのは、酒にじゃない。  お前との、あったかもしれない別の関係の可能性に、酔ってるんだ。 「みたいだな」 「へへ。あいつら、ガチ彼女って……信じてた。男とか、絶対思ってもないよな」 「うん。自分で言うのもなんだけど、これは女子だ」    肩をすくめ、自嘲する絆。  俺が足を止めたのに、問うように俺を見つめる。 「だよな。可愛いもん。で、可愛い女の子は、みーんな、俺の彼女なのよ」 「はあ?」  俺は絆の腕をやや強引につかむと、建物の陰になる場所に引き寄せ、その背を壁に押し付けた。  「山登?」  怪訝な様子で俺を見上げる絆の両脇に腕をついて、その瞳を覗き込む。  吸い込まれそうな黒い瞳の中には、苦しそうな俺が映ってた。 「キスしていい?」 「おま……何、言ってんの?」  不安げに揺れる瞳。  関係が壊れるんじゃないかって、怯え。 「可愛い女の子はとりあえず口説いとけって俺に教えたの、絆さんだけどね」 「はは…おまえ……結構飲んでたんだ…」 「師匠の教えどうり、可愛い女の子が目の前にいるから、口説いてんだけど?……童貞がえらい進歩したろ?」 「はは。伸びる時期ってやつか…?」 「なぁ。キスして、いい?」  駄目押しの言葉に、絆の顔がゆがむ。 「ダメ」  はは。だろうな。  けど。  たった二語の返事に、俺は、救われる。 「……嫌、じゃなくて?」 「うん」   ああ。やべ。心臓、痛い。 「なら、いいや。じゃ、むぎゅって、していい?」 「うん」 「……うん」  腕の中に、華奢な絆を抱きしめた。  俺の心臓の音が絆の心を溶かしてくれればいいのに。  こんなに絆を想ってる、証だから。    
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