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鉄は熱いうちに
「はーい! 3分っ!」
「おいおい、3分たったよ」
「ちょ! 終わったって! お前らエロ過ぎな」
キスを止めない俺たちに周りから制止の声が入り、絆が急に目が覚めたみたいに俺を押しのけようと暴れ始めた。
……早すぎだろ。3分なんて、こんなんで、足りるわけない。
それでも嫌々離してやった絆は、初めてキスをしたあのときと同じ目をしてた───。
傷ついたような、あの、目。
俺を、苦しめる、目だ。
「見た? 今のっ」
俺はハサミで切り取ったくらいの勢いでアッサリを装い絆から離れると、加治さんの彼女の横にドンと腰を下ろした。
「ご期待に沿えそう?」
「んーっ! 期待以上っ」
さっきのはあくまでも、悪乗り。
女の子へのセックスアピール。
なあ絆、そんでいいんだろ?
そしたらお前は、安心できるんだろ?
「よしっ! ちゅーことでっ! 俺らゲーム抜けるわっ!」
「えー、ほんとにぃ?」
俺は、もう誰のものともわかんないワイングラスの中身を一気に煽ると、彼女の腕をとり、その場に立ち上がった。
視界の端に捉えた絆は、俯いて、口を拭ってる。
俺ごと。
拭う、みたいに───。
「店長、奥借りるねぇ。あ、加治さん、彼女、借ります」
「おう。汚すなよ」
「ゴムはよろしくね」
ほんとに手に入れたい快楽が手に入らないんだ。
なら、求められるなら、応じるさ。
俺はそれに、勝手に乗っけるから。
想像とか、妄想とか、さ。
なら。
鉄は熱いうちに打て。
絆の記憶がそこにあるうちに、打ち込め、だ。
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