友達という呪縛

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友達という呪縛

「や……ちょ、や…ダメだって」  トイレへ入ったら、小さくても聞き違えるはずのない絆の声が個室の中から聞こえてきた。  便器? 便座? ギシギシと軋む音が、規則正しいリズムで刻まれる。 「キス……嫌」  一瞬、絆が女の子を連れ込んでるんだと思った。  でも、でも、それにしては声の調子が……おかしくないか?  これじゃ……まるで…。 「なんで? ゲームんときしたのに」  加……地さん?  は? 「セックスの時はヤダ」 「やらせろよ」  軋む音が激しさをます。  濡れた音が、いやらしく響く。  熱い、息が。  切ない、喘ぎが。 「あぁ! …そこ…そこ、もっと…」 「イイ?」 「ん。イイ。あ…あ、あ、あん…やだってっ…んっ、キスは…や…だ…っ」 「イイッて言ったろ?」 「違……んんっ」  頭が。  脳が沸騰する。  真っ赤に。  彩られる。  考えるよりも。  足が。  勝手にドアを蹴っていた。  ああ、清澄さん。こういうことね。  はは。  わかったわ。  おかしくなりそう。  でも。  俺は友達なんだ。  友達は、嫉妬でおかしくなったりしない。  友達は。  そして俺は。  友達。  絆の中では、友達。  嫉妬は封印。  心は、封印。  けど──壊れる。  もう、嫌だ。  無理だ。  助けてくれ──。  一切の音が止まる中、俺はその場から逃げ出した。
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