合格発表

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合格発表

 あの日、心のドアを固く封印してからの俺の恋愛事情に何か変化があったかと言えば、特になく、相変わらず女の子を引っ掛けたり引っ掛けられたりの週末を過ごしていた。  絆への気持ちもそのまま。  可愛い女の子と育む気持ちのいい時間のお陰で欲求不満に陥るようなことはないから、まあ、恋は報われなくても絆との友交関係は良好で、概ね平穏に日々を過ごしてたわけだ。 「ヤバい、ヤバいヤバいヤバいっ!受かった!受かってるっ!」  パソコンの画面に待望の番号を見つけた瞬間、思わず椅子から腰が浮いた。  三年越しのリベンジに成功した瞬間だったから、とにかく興奮して、後ろに立ってた絆の手を掴んで振り回してた。 「すげえ、俺すげえしっ!」  確かに女の子とは遊んだけどそれは週末のほんの一時の気分転換で、それ以外のすべての時間を勉強に費やし、絆と同じ大学に、見事滑り込むことに成功したんだ。  まあ六年通う絆の学部には流石に手が届かなかったけど、キャンパスが同じってだけで高校より確実に距離は縮まる。 「俺も。お互いオメ。今日は宴だな」  俺の志望学部より10以上偏差値高いとこを受けた絆だけど、センター8割強なんてのを引っさげてたから余裕あったし、カズは数日前に合格の通知を受け取り、樋口に至っては仮入社って形で既に就職していた。 「う、わー。絶対ダメだと思ってたわ」    個別の英語が得意じゃなくて、物理は嫌いじゃなかったけど理系だと物理は基本みんな点取ってくるからセンターにかけなきゃって思ってたのが国語でこけて。 「もしもーし、鍋祭り決まった!…いやいや、実力っしょ!ありがと。…うん。うん。わかった。じゃあ、6時にな!用意して待ってるから!ケーキよろしく!はあ?そこは生クリームだろっ!…うん。じゃ、また後で!」  鍋祭りって言葉で、相手がカズか樋口だろうとわかる。  通話を終えた絆が笑顔を見せて「買い物いこう」と、俺が握ったままの手を差し上げた。  離せって意思表示なんだろうけど、俺はそんな空気を読むなんてことはしない。  結局高1から背の伸びることのなかったその体を抱き上げると、まだライフラインが通ったばっかりで殆ど荷ほどきをしてない絆の新居のリビングをダンスフロア代わりに、クルクルと回ってみせた。  愛妻に妊娠を告げられたダンナがやるようなやつ。 「絆ちゃーんっ!嬉しいっ!マジで嬉しいっー」 「わかったから。こら、目回るから止めろっ!ちょ、吐くってばっ」 「んーっ!ちゅーっ!」  ノリに任せて、大きな音をたてて頬にキスをする。  あくまでも軽いノリ。  でも本当は全神経を集中させて。  好きだよ。  そんな気持ちを込めた。 「わかったから、落ち着けっ」  眉を寄せて苦笑する絆。  その目には、拒否も、不安も、怯えもない。  なぜなら俺が受験勉強の傍ら、頬にキスなんて挨拶、くらいの軽いキャラを磨き上げてきたからだ。  ただ、唯一の相手に触れる為に。  ほんと、なんていうか俺は、爛れた乙女だ。
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