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鍋祭り
『ピンポーン』
「はいはいっ」
キッチン脇のインターホンは来客の顔が見えるタイプのもので、そこにはカズと樋口の姿。
合格祝いの鍋祭りは、なんやかんやで結局4月まで持ち越しとなって、やっと四人が揃うのは、本当に久しぶりだった。
慌てて玄関に走り鍵をあけると、樋口が無表情で投げキッスをくれ、カズが笑顔でビールを差し上げてくれた。
「なんか、あれだね。新婚さんみたい。……やっぱエプロンだよね」
「はあ?」
図らずも照れた俺と、なんでか動揺してるカズを尻目に樋口はさっさと上がりこむ。
「キーズーナー!ひっさー」
「よお。先生!」
樋口は高校で難しい資格を取って会計事務所に就職していた。
4月を待たずに3月から既に出勤しており、税理士だか会計士だかを目指してる。
「はい。これ、ケーキ。白いやつね。先生様の奢りだぞ。ホールだから掴んで食って」
あいもかわらず甘い物の好きな絆は、デカイ箱を手にしてピョンピョン跳ねた。
……くそ可愛い……。
「わーいっ!ケーキケーキ!!樋口愛してるぅ」
「うむ。くるしゅうないぞ」
はあああ!愛してるだと!?
言われたことねえわっ。
ちくしょー!!俺がケーキ買ってくれば良かったっ。
「まあ座ってよ。鍋、用意してるから」
「まあ絆は監督してただけだけどな。こいつ、ほんっと家事できないの」
「いいんじゃないの。料理上手より床上手だよ。ねえ?」
なんちゅうことを言うんだ。
や。前にも言ってたか。そんなこと。
話を振られたカズが首から外したマフラーを、当たり前のように受け取る樋口。
「まあ、どっちも上手にこしたことないな。俺毎日派だから」
笑いながらリビングのテーブルに着いて俺に缶ビールを投げるカズ。視線の泳ぐ樋口。
ん?
「お前ら来るの遅いんだよ。樋口も今日は半日出勤だったんだろ?」
文句を言いながら取り皿を手渡す絆に、並んで座った二人が顔を見合わせた。
「いやあ。久しぶりだったから、ちょっと、いろいろ」
直ぐに目を逸らした樋口の耳の辺がちょっと赤くなったのは、気の…せい?
「じゃ、ま。乾杯といきますか?おめでとうさーん」
なんとなく腑に落ちないながら、樋口の音頭で鍋パーティーと、あいなった。
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