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みかん
「ちょ、おま、最悪!最低のゲロ野郎だな」
「ははん、きれいごとじゃあ世の中渡ってけないんだよ」
元祖の、スーパーじゃないマリオブラザーズのコントローラーを握る絆とカズ。
絆が雑貨屋でパチモンの本体と中古のカセットを買ってきてたんだ。
無心になりたいときにやるらしい。
確かに、単純なくせに妙にハマるゲームだった。
「ん」
俺はと言えば、雛鳥に餌を与えるがごとく、ミカンを剥いては黙って口をあける絆へと放り込んでいた。
「それ。元はと言えばそれなんだよ」
「あん?」
みかんの白いのが手についたのを払う俺に、樋口が唇を尖らせ、顎で示す。
「そゆの、いいなって思ってたんだ」
「なんだよ」
「はあぁ……難しいねぇ」
「ぎゃーっ! くそっ! 交代っ! 山登っ! 頼んだぞっ!」
絆にコントローラーを押し付けられる俺。
同時にカズからコントローラーと受け取った何となく浮かない表情の樋口の顔は、いつも通りの、飄々としたものに戻っていた。
「はあ? カズっ?」
敵の動きが妙に早くなってきたころ、振り返った樋口が声をあげた。
見れば、カズが床で丸くなって眠ってる。
「結構飲んでたからな。おまえ今日もう泊まってくだろ?」
絆はといえば、眠いからと、さっさと寝室へ引きこもってた。
「ったくもうっ! あんだけ酔っぱらうなって言ったのにっ」
腕を組んで、すっかり寝入ったしまったカズを睨みつける樋口。
「なあ、お前ら、よく会ったりしてんの?」
ゲームとテレビを消す俺に樋口は肩をすくめ、ちょっと疲れたように息を吐いた。
「うん、まあ。けど、僕、忙しいからなかなか、ね」
日本酒を舐める樋口の目もまあまあ座りつつあるけど、それでも、カズを見る目は…。
「なあ、お前ら、できてんの?」
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