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それぞれの今
自分でも、サラッと出てきた言葉に驚いた。
けど、それに対する樋口の反応があんまりにもあんまりで、その言葉が突拍子もないものじゃないって確信を俺によこす。
だって…。
耳まで真っ赤ですよ、樋口さん。
「…な…わけ」
そう推測したら、かつてのやりとりに裏付けるもんがあったんだって気づいたり。
「女装ライブの打ち上げんとき、命令される前にエロチューしてたし。端々に……なぁ? 耳赤いよ」
「酒のせいっ! だって、おおお男同士でそんなん、あるわけないでしょっ」
「いや、だって…」
「ないからっ! つか、カズ、女いるし。指輪、買ってんだから…」
浮かべた笑みが寂しそうに見えたのは、角度のせい?
「だから、冗談でも止めてよね。そういうの」
「そか」
「うん」
これ以上この話はしちゃいけない。
そんな風に思ったのは、樋口とカズの間に、確実にナニかがあるってわかったからだ。
黙ってることは無理に聞き出さない。
それはこいつらが俺にしてくれたことだ。
「仕事、キツい?」
「つか、同期が最悪。高卒なんて人間じゃないみたいな扱いでさ。何回首締めてやろうと思ったかしれないよ」
力一杯顔をしかめる樋口に、苦労を知る。
基本的に感情の起伏を大きく見せない樋口だから、色々漏れてる今日の様子からして溜まってるもんがあるんだろう。
「おまえ、社会人なんだなぁ。ほんとすげえよ。んな同期、相手にすんなよな。そんで、首締める前に、愚痴りに来い」
「ふふ。さんきゅ」
「いっぱいいっぱいになった時は、いっぱい泣けってさ。そしたら隙間ができて、また頑張れるって、アンリママさん受け売り」
「ああ、あの美人のオカマさん」
「……それ本人に言うなよ。抹殺されるぞ。あ。んでさ、いっぱいいっぱいになったぶん、器がでかくなってるって」
「マジで?」
「多分。泣きたいときはいつでも言いなさい。この山登様の胸を貸して差し上げよう」
「遠慮しとくわ。絆が拗ねそうだから」
気になるとこではあったけど、カズがじゃねえの?なんて聞くほど、俺は野暮じゃないのだ。
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