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仮初の温もり
馴染む肌。
一緒に居て気の休まる、お気に入り。
「お帰り。ユナちゃん、シュキシュキ」
コトの後、シャワーを浴びて戻ってきたユナの、ガウン越しのその大きな柔らかい胸に顔をうずめてすりつける。
ユナは俺の頭に手を載せると、くしゃりとかき混ぜ、指を絡ませた。
「知ってる。…女の子、好きだもんねぇ」
「うん」
「クスクス。ね、キスして」
「いいよ」
「優しくして」
「いつも優しいでしょうよ」
「とっときに優しいのがほしい。恋人にするみたいなの」
「いつもそのつもりだけど?」
「違うでしょ? ねぇ。最後だから、お願い」
最後って言葉にユナを見上げたら、ユナは優しい微笑みを浮かべていた。
「どういうこと?」
「山登に関わりたいなら、深入りしようとするなっていうのが鉄則なんだって、知ってる?」
「……?」
「だから、できるうちにフェイドアウトしようと思って」
「そっか」
「あっさりしてる」
クスクス笑う声が少し悲しい気がするのは、俺の思い過ごしなんだと、そう、思うことにする。
「恋人のキス、してくれるの? くれないの?」
真っ直ぐ見つめる瞳に俺が返せるのは、苦笑だけ。
「ごめんな」
「くすくす。ヤマトさいてー」
「うん」
「けど、好き」
「……うん」
「あら? 好きって、言ってくれないんだ?」
「うん」
「わかりやすすぎっ」
「ははは」
「山登は、特別はいらないの?」
「うん」
「本気になったりしたこと、ある?」
その答は口にしちゃいけないってことを、俺は知ってる。
それは仮初めの温もりしか求めない俺の相手をしてくれる彼女たちへの、最低限の礼儀。
自分を見向きもしない、たった一人の相手にこだわってるなんて無様な姿は、欠片も、見せない。
「ならないよ。誰にも」
「かわいそうね」
「だから優しい女の子になぐさめてもらってる」
「私は優しくないね」
「そうでもないよ」
「着がえたら、そのまま帰るね」
「送るよ」
「いらない」
「けど…」
「サヨナラ。元気でね」
「……うん。バイバイ」
ユナは優しい笑顔を浮かべたまま、ソファーに投げ出した服を手にバスルームに消えた。
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