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酔っ払いのライン
「わかんない。19も離れてるのに。今さらだろ。山登んとことは違う。ああ、紗知姉、結局彼氏とどうなったの?」
「振られたらしいな。喚いてたわ」
そして朝まで酒に付き合わされたのは、つい数日前のことだ。
「ガサツすぎんだよ、あいつは」
「そゆの含めて、紗知姉の魅力なのにねぇ」
「本人に言ってやってくれ。泣いて喜ぶ」
「よし! 今から呼べよ。絆様がぁ、姉弟あわせて慰めてやる!」
ま。呼ぶわけないけどね。
せっかくの絆との時間にわざわざ邪魔者は呼ばないだろ。
「……ちなみに何本空けた?」
「ん? 二本は、空いてないよ?」
「一本空けてんのかよ。ワインよか、鍵開けて? 着いたから」
「はあ!? 早くない? どっからかけてきてたんだよ」
「近くから。はーやーくー。アイスが溶けるぞ」
「マジで!?」
ドタドタと音が聞こえたかと思うと、勢いよくドアが引かれ、アルコールに目を潤ませた絆が顔をだす。
洗いざらしの髪が無防備な色気を際立たせていた。
相変わらず免疫をつける気のない心臓に空気を送りこみ玄関に入ると、後ろ手に鍵をかける。
「おじゃまさん。絆ちゃん、ちゃんと飯くった?」
「食った……か? つか、俺が居なかったどうす……っ」
酒に緩い絆の性質を俺は知ってる。
そしてこれが、ハグまでは許されるラインの緩み方だってのも、知ってる。
「居たろ?」
「ちょっ、苦しいっ」
「慰めてくれんだろ? アイスが溶けるなんて言ったら、拗ねるからな」
「……アイスが溶けるっ!!!」
「そんなつれないこと言ったらどうなるかわかるか?」
「あん?」
「もう、離さんっ! アイスは放置プレイだっ!!」
「ぎゃあ、離せって、バカっ!!」
俺は絆の体を抱えあげると、そのままダイニングルームのソファーに倒れこむ。
そして、どさくさに紛れて、バタバタ暴れる絆の、まだ少し湿気の残る髪に唇を落とした。
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