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傷心とアイスクリーム
「アイスっ! 溶けるっ!!」
「はあ? 傷心の俺とコンビニアイスとどっちが大事なんだっ!?」
「アイスっ」
「薄情者っ!!!」
「だって山登絶対傷心なんてしてねえもんっ!」
「なんでわかるんだよっ」
「本気じゃなかったろ!?」
「………」
本気だよ。
ずっと、本気だ。
絆にだけど。
「ほら」
「なにが、ほら、だ。お子様絆にはね、繊細な俺の心はわからんの」
「はあ? お子様ってなんだっ! 童貞切ったの、俺のが早いしー」
「ほらな、そういうとこがお子様なの。で? お子様は晩御飯何をお召し上がりに?」
「………あぁ……と、チーズの……」
腕の中で絆の抵抗が弱まる。
「チーズの? 何?」
「チーズの……」
視線はテーブルへ。
そこにはキューブタイプチーズの小さな包装紙片が2枚と、転がったワインの空き瓶と、スマホの横に起立する、二本は空いてないという噂の、ほぼ空になった影を透かすワインの瓶。
「チーズ二粒は晩飯と言わずに、つまみ、っていうんだ。……っとに。最近はお子様用の包丁とか売ってるくらいなんだぞ? お子様どころか赤ちゃんじゃねえか。安心しろ。お前のとこの兄妹には、年の差ねえわ」
はあ…。
ほんとはもっと戯れていたいとこだけど、ほっとくと飯食わないまま寝てしまうだろう。
「材料残ってんの何かあるよな? しゃあない。俺がなんか作ってやるよ」
絆は俺の腕の中でグルンと姿勢を変えると、俺の首に腕をまわし、肩口にグリグリとおでこを擦りつけた。
スキンシップを好む絆の仕草に、ハグのラインを越えてきてるのがわかる。
酔いがまわってくるとこうなるのは、もちろん学習済みだ。
「パパぁー、きーくん、ケチャップご飯がいいっ! 卵のっけて?」
「はは。オムライスね」
……や。もう、ね。
卵でくるんで食っちまいたいよ。
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