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素直な悪魔
「じゃ、マヨネーズとか混ぜてみる? タンパク質の結合じゃまするんじゃなかったっけ?」
「ああ…マヨって乳化してるのか。おお、それやってみようっ! ちょ…移動して、ほら」
「危ないって」
右手にソーセージを、左手に包丁を持ってる俺に、背中の絆が冷蔵庫へ体重を傾けた。
「マヨネーズとか後でいいだろうよ。……あ、つか、お前、ご飯は? ケチャップご飯なんてリクエストするくらいなんだから、当然あるよな?」
「んー……どっかな? 山登冷凍してなかったっけ?」
「……こないだそれ使ったから、ちゃんと炊いて食えとは言ったな。炊いてないんだろ」
「うーん。覚えがないっ」
「じゃあケチャップご飯なんて無理だろうっ?」
「ふふ。じゃ。なんでもいい。山登が作ってくれたら、そんでいいよ」
ペタンと、絆の体が完全に俺にもたれかかり、肩口に頭がのっけられた。
「なんでも……いいんだ…山登」
……どうして……こんなことを、言うんだって話。
俺の顔は今、見られたもんじゃないくらいの間抜け面だろう。
「じゃ……オムレツな」
「ん。ふわふわ…よろしく」
「んなもんわかんねーよ。どんなになっても文句言うなよ?」
「言う」
「俺が作ったんならなんでもいいんじゃなかったっけ?」
「努力して…」
「いつだって全力だよ、俺は」
「そう……だっけ?」
どんどん絆の力が抜けていく。
料理してる最中に虚脱した、軽いとはいえ19歳の男背負ってるのはかなり苦痛なんだけど、もったいなくて、おろすなんてことは、とてもできない。
「こら、寝るなよ? しっかりつかまっとけ」
「ん」
「寝たら、玉ねぎ、まぶたに擦り込むぞ?」
「鬼か」
「親心だろ。甘やかしたらロクな大人にならないからな。絆ぁ、おまえほんとにこんなんで大丈夫かよ」
「山登がいるから……だいじょぶ」
……ほんとにね。酒飲んでる時の絆は、素直というか。悪魔というか。
その言葉が、俺をどれだけ舞い上がらせるのかなんて、知らないんだろうな。
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