素直な悪魔

1/1

214人が本棚に入れています
本棚に追加
/216ページ

素直な悪魔

「じゃ、マヨネーズとか混ぜてみる? タンパク質の結合じゃまするんじゃなかったっけ?」 「ああ…マヨって乳化してるのか。おお、それやってみようっ! ちょ…移動して、ほら」 「危ないって」  右手にソーセージを、左手に包丁を持ってる俺に、背中の絆が冷蔵庫へ体重を傾けた。 「マヨネーズとか後でいいだろうよ。……あ、つか、お前、ご飯は? ケチャップご飯なんてリクエストするくらいなんだから、当然あるよな?」 「んー……どっかな? 山登冷凍してなかったっけ?」 「……こないだそれ使ったから、ちゃんと炊いて食えとは言ったな。炊いてないんだろ」 「うーん。覚えがないっ」 「じゃあケチャップご飯なんて無理だろうっ?」 「ふふ。じゃ。なんでもいい。山登が作ってくれたら、そんでいいよ」  ペタンと、絆の体が完全に俺にもたれかかり、肩口に頭がのっけられた。 「なんでも……いいんだ…山登」  ……どうして……こんなことを、言うんだって話。  俺の顔は今、見られたもんじゃないくらいの間抜け面だろう。 「じゃ……オムレツな」 「ん。ふわふわ…よろしく」 「んなもんわかんねーよ。どんなになっても文句言うなよ?」 「言う」 「俺が作ったんならなんでもいいんじゃなかったっけ?」 「努力して…」 「いつだって全力だよ、俺は」 「そう……だっけ?」  どんどん絆の力が抜けていく。  料理してる最中に虚脱した、軽いとはいえ19歳の男背負ってるのはかなり苦痛なんだけど、もったいなくて、おろすなんてことは、とてもできない。 「こら、寝るなよ? しっかりつかまっとけ」 「ん」 「寝たら、玉ねぎ、まぶたに擦り込むぞ?」 「鬼か」 「親心だろ。甘やかしたらロクな大人にならないからな。絆ぁ、おまえほんとにこんなんで大丈夫かよ」 「山登がいるから……だいじょぶ」  ……ほんとにね。酒飲んでる時の絆は、素直というか。悪魔というか。  その言葉が、俺をどれだけ舞い上がらせるのかなんて、知らないんだろうな。
/216ページ

最初のコメントを投稿しよう!

214人が本棚に入れています
本棚に追加