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浅はかな理由
「居るよ。ずっと。絆がいらないっていうまで、ちゃんと、居てやる」
「言わない。いらなくなんて、なんない」
その言葉が俺のぐちゃぐちゃした気持ちを救ってるなんて、思いもしないんだろう。
「子供はそう言うんだよ。パパとずっと一緒に居る。お嫁さんにいかないって」
「俺、嫁さんになんていかないもん」
「ほら、な?」
「は? 違うだろっ! 俺は男だから、行くならお婿さんなのっ」
「あーほら、な? パパを残して、行くんだよ。お婿さんに」
「行かないもん。お嫁さんはもらうもんだもんっ」
どうにも。
このくそ可愛いのは、どうしたもんか。
「そうだっ! 山登さっさと結婚して娘拵えろ。んで、嫁にくれ。お父さんって呼んでやるから」
いきなり身を乗り出してきた絆にバランスを崩しそうになった。
そして、それこそ頬が擦れ合うくらいの距離にある絆の顔に、呼吸がやばくなって、返す言葉は酷く声が掠れてた。
「年の差どんだけだよ……まあ、でも、お前の娘かぁ。可愛いな。よし。俺が嫁に貰ってやるわ」
「はあ? やだよ。山登みたいな軽い男に可愛い娘をやれるかっ」
誰のせいだ、バカっ!
「俺だって絆みたいな軽い男には娘はやらんわっ」
つか、やらんわ。
俺が欲しいもんを、娘には、やらん。
つかそれ以前に……。
「娘はできんわ。俺、結婚しねえと思う」
「……それは、ないだろ…」
「あるね。日本が一夫多妻制を導入しない限り、無理だ」
「あ、それ言えてる。じゃ、俺も無理だわ……」
「いや、おまえは嫁さんもらったほうがいいぞ。んで、飯つくってもらえ。そんで娘を俺の養女に……」
「……ん……」
「わりぃ……っ…?」
振り返ったのは、わざと。
そこに絆の顔があったから、やっぱ耐えらんなくて。
うまいこといったら、事故にみせかけてキスできるかも、なんて浅はかな理由。
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