浅はかな理由

1/1

214人が本棚に入れています
本棚に追加
/216ページ

浅はかな理由

「居るよ。ずっと。絆がいらないっていうまで、ちゃんと、居てやる」 「言わない。いらなくなんて、なんない」  その言葉が俺のぐちゃぐちゃした気持ちを救ってるなんて、思いもしないんだろう。  「子供はそう言うんだよ。パパとずっと一緒に居る。お嫁さんにいかないって」  「俺、嫁さんになんていかないもん」 「ほら、な?」 「は? 違うだろっ! 俺は男だから、行くならお婿さんなのっ」 「あーほら、な? パパを残して、行くんだよ。お婿さんに」 「行かないもん。お嫁さんはもらうもんだもんっ」  どうにも。  このくそ可愛いのは、どうしたもんか。 「そうだっ! 山登さっさと結婚して娘拵えろ。んで、嫁にくれ。お父さんって呼んでやるから」  いきなり身を乗り出してきた絆にバランスを崩しそうになった。  そして、それこそ頬が擦れ合うくらいの距離にある絆の顔に、呼吸がやばくなって、返す言葉は酷く声が掠れてた。 「年の差どんだけだよ……まあ、でも、お前の娘かぁ。可愛いな。よし。俺が嫁に貰ってやるわ」 「はあ? やだよ。山登みたいな軽い男に可愛い娘をやれるかっ」  誰のせいだ、バカっ! 「俺だって絆みたいな軽い男には娘はやらんわっ」  つか、やらんわ。  俺が欲しいもんを、娘には、やらん。  つかそれ以前に……。 「娘はできんわ。俺、結婚しねえと思う」 「……それは、ないだろ…」 「あるね。日本が一夫多妻制を導入しない限り、無理だ」 「あ、それ言えてる。じゃ、俺も無理だわ……」 「いや、おまえは嫁さんもらったほうがいいぞ。んで、飯つくってもらえ。そんで娘を俺の養女に……」 「……ん……」 「わりぃ……っ…?」  振り返ったのは、わざと。  そこに絆の顔があったから、やっぱ耐えらんなくて。  うまいこといったら、事故にみせかけてキスできるかも、なんて浅はかな理由。
/216ページ

最初のコメントを投稿しよう!

214人が本棚に入れています
本棚に追加